2024年7月19日(金)

日本の医療〝変革〟最前線

2023年5月30日

現場では浸透しつつある「家庭医」の考え

 とはいえ、厚労省も認めたかかりつけ医機能の「身近な地域における日常的な医療」を第一目的とするなら、健康相談は欠かせないだろう。相談は、日常的な医療を受ける前段階であり、普段の心身の状況の把握は地域医療の原点でもある。かかりつけ医問題の出発点だった「家庭医構想」を振り返ってみれば明らかだ。

 1985年に、当時の厚生省が家庭医を日本でも実現させようとして立ち上げた「家庭医に関する懇談会」(座長・小泉明東大教授)は、87年に「家庭医機能10項目」を提言した。英国やオランダなどの欧州諸国で定着している家庭医の考え方を日本でも広げようとしたものだ。

 海外の家庭医制度では、患者は地域の特定の医師(診療所)を家庭医と決め、あらゆる日常的な病気の治療を受ける。登録制なので原則フリーアクセスはない。

 その日本版を目指した10項目の中の第2項目に「健康相談及び指導を十分に行うこと」とある。「生活背景の把握」「全人的対応」などと並ぶ家庭医の必須の業務として織り込んだ。

 この家庭医構想はその後、日本医師会から強い反対に遭う。力負けした厚生省は、構想を全面的に取り下げた。以後、家庭医の用語すら省内で禁句となり、代わって日本医師会が「発明」したのがかかりつけ医であった。

 だが、現場の医師の間では、「家庭医療専門医」が2009年から養成されており、約1000人の医師が資格を持つ。家庭医の普及を目指す日本プライマリ・ケア連合学会(草場鉄周理事長)が主導し、研修終了生に与える認定制度である。

 20年には、110の国と地域の家庭医学会が加盟する世界家庭医機構(WONCA)から国際認証を得て評価を確立させた。

「病気は悩みのひとつ」その人の生活を診る

 東京都品川区の診療所、「みんなのクリニック大井町」の年森慎一院長は、家庭医療専門医の資格を持つ一人である。診療のなかで、来院者からの相談を重視している。

家庭医としての診療体制をとっている「みんなのクリニック大井町」(筆者撮影、以下同)
玄関ドアの外壁には「まずは相談を」呼びかけている 写真を拡大

 まず、診療所の玄関ドアの外の壁面には、「あなたのどんな悩みでも、私たち家庭医に相談してください」「育児の相談」「認知症の相談」「持病の相談」などと書かれ掲示されている。「まず相談を」という姿勢がよく分かる。

 「『どんな病気』でなく『どんな悩み』としたのが私の家庭医としての考え方です。病気は悩みのひとつに過ぎないと思う。心身の修理屋ではなく、人生の伴走者として関わりたい。その人の生活全体をみていきたい」と話す。

受け付ける相談も多岐にわたる 写真を拡大

 診察前に患者が記入する「家庭診療問診票」では、「ご職業は何ですか」と尋ね、「家族のことについて教えてください」との項目もあり続柄や年齢、病気を記入する表がある。

 生活の全容を把握するのは家庭医ならではである。他の医療機関とはかなり違う。「仕事内容は必ず聞くようにしています。それによって私の話し方が変わりますから」と立場は明快だ。

 「小児問診票」では、「学校は楽しいですか」と問い、子どもにも相談を呼びかける。「いいえにチェックされていれば、どうしてと話が広がっていきます」。治療の前段階として、生活相談を掲げる。

 この家庭医の本来の在り方を承継するのがかかりつけ医であろう。健康相談を軸に生活の質(QOL)に関わる相談事を受けるのは重要な業務であるはずだ。

浅川澄一氏による「曖昧すぎる日本のかかりつけ医 実現に必要な「公」の視点」はWedge Online Premiumでご覧になれます。
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