2022年12月9日(金)

家庭医の日常

2022年11月23日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(Chinnapong/gettyimages)

<本日の患者1>
S.Y.さん、21歳、女性、大学3年生。
 あなた(家庭医)のクリニックには初めて受診します。看護師から医師へのメモには、S.Y.さんの受診理由として「頭がぼーっとする」と書かれていました。10分間で診療をしてみましょう。

<本日の患者2>
G.M.さん、66歳、男性、郊外の山の中腹にある禅寺の住職。
 あなた(家庭医)のクリニックには、高血圧で5年前から3カ月ごとに通院しています。アムロジピン5ミリグラム(mg)錠を1日1回服用して、直近1週間の家庭血圧は平均132/82 mmHgでした(前回の受診前1週間の平均は124/76 mmHg)。
 今日は定期受診でしたが、診察が一通り終わった時に「何か他に気になっていることはありませんか」とあなたが問うと、「耳鳴りが気になる」と訴えました。幸い、次の予約患者がキャンセルになって10分余裕があります。10分間で診療をしてみましょう。

ロールプレイによる診療能力の評価

 今回は、家庭医の診療能力とは何か、それをどのように教育し、その能力が獲得できていることをどのように評価するのかについて語ってみたい。

 冒頭に掲げた2つの例は、家庭医(日本では「総合診療専門医」とも呼ばれる)を目指して専門研修をしている「専攻医」と呼ばれる医師たちを対象に、私が毎週実施している外来診療のトレーニングで用いるロールプレイの医師役シナリオの一部である。患者役のシナリオにはさらに詳しい説明が書かれている。

 ロールプレイとは、患者役と医師役を決めて、患者が抱える問題についてそれぞれの役向けに必要な情報を記載したシナリオをもとに模擬診療をすることである。通常、指導医が患者役を、専攻医が医師役をそれぞれ10分間ずつ演ずる。模擬診療の様子は録画しておく。かつてはビデオカメラを利用していたが、現在はオンライン会議システムを利用して容易に録画できるようになった。

 模擬診療が終わったら、患者役、医師役そして模擬診療を観察した同僚たちと3〜5人の小グループで、主として医師役のパフォーマンスを評価してフィードバックする機会を設ける。必要に応じて、録画した動画を再生しており、「ビデオレビュー」と呼んでいる。

 私たちの「ビデオレビュー」をはじめ「臨床技能評価」(後述)では、私の親友である英国家庭医学会元会長のRoger Neighbour先生とデンマークのコペンハーゲン大学家庭医療学講座のJan-Helge Larsen先生が共同開発した“Windows Method”を用いることで、評価される人(医師役)の心理的脅威が出来るだけ少ない学習環境を作り、参加者の誰もが安心して学ぶことができるように工夫している。

 “Windows Method”では、医師役とその他の参加者(同僚+指導者)それぞれが、(1)この患者からどのような感情を引き出されたか、(2)うまくいったことは、(3)[医師役]もっと違うようにやりたかったことは、[同僚+指導者]もし絶好調の日の自分だったらできたことは、(4)このセッションから持ち帰りたいことは、(5)今の気持ちは、について語り合う。

 できなかったこと(改善が必要なこと)を失敗と捉えてネガティブに悔やむ(指摘する)のではなくて、別の機会にはこんな風にしてみたい(指導者だっていつもできるわけではない)より良い診療の要素を考えてみる、(指導者も含め)参加者全員がこのセッションから学びを持ち帰る、自分の感情の動きに注目することがこの方法の特長だ。

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