2024年11月25日(月)

家庭医の日常

2022年11月23日

家庭医の臨床技能はどのように評価されるか

 毎週のロールプレイのフィードバックとビデオレビューで、私は専攻医たちのパフォーマンスを見ながら、おおよそ上記のメモのような内容を考え、それをフィードバックしつつ、感情の振り返りも含めた残りの “Windows Method”を進めていく。

 「疲労」や「耳鳴り」など年間約20トピックスをカバーし、それぞれに3つずつ異なった患者・家族のシナリオがあり、専攻医たちは専門研修期間4年間のうちの合計2年間、毎週半日をこうして学ぶ。だから、専攻医は1人あたり合計約120のシナリオに遭遇して、それを使ってロールプレイして、フィードバックしたりされたりすることを積み重ねていく。

 こうした2年間の経過を経た専攻医たちの成長ぶりには目を見張るものがあると感じるのは、指導医の色眼鏡かもしれない。そこで、私たちの専門研修プログラムの内部では彼らの臨床能力を正式な試験で評価することもしている。それを臨床技能評価(CSA; Clinical Skills Assessment)と呼んでいる。

 CSAでは、次の3つ技能(スキル)を評価する(実際には評価しやすいようにさらに細分化した13項目でチェックしている)。

(1)データ収集および問題解決スキル

 患者の受診理由を探り、その問題を解決するために必要なデータを収集できるかを評価する。臨床研究のエビデンスに基づいて必要な診察や検査を選択して実行し、その結果を解釈するスキルも含まれる。身体診察の手技と診断および治療器具の使用に習熟していることも評価する。

(2)臨床マネジメント・スキル

 プライマリ・ヘルス・ケアでよく遭遇する健康問題のマネジメントに習熟しているかを評価する。意思決定に対する構造化された柔軟なアプローチ、複数の症状の訴えや併存疾患に対処する能力、健康維持・増進への積極的なアプローチを促進する能力を示せるかを評価する。

(3)対人スキル

 患者の病気の経験と健康観を理解し、患者との共同意思決定に積極的に関われるように促し、問題解決のために共通の理解基盤を見出せるかを評価する。そのために推奨されたコミュニケーション技法を使い、適切な表現で説明し、患者の理解を確認できるか、専門職としての行動規範に則って、公平と多様性を尊重して倫理的に実践できるかを評価する。

「かかりつけ医」という専門医を育成できるか

 「かかりつけ医」の機能についての議論が盛んである。しかし、「かかりつけ」の定義のようなものがいろいろと示されていても、その診療能力と患者の健康状態への効果(いわば「かかりつけ医の質」)をどう評価するかの議論は乏しい。

 家庭医は、プライマリ・ヘルス・ケアの専門医である。ある領域の専門医とは、その領域の専門研修を満足いく評価で修了した医師のことである。専門研修の期間は、領域や国によって差はあるが、通常2〜5年程度を要する。

 かつての臨床教育は徒弟制度の名残りで「先輩医師の背中を見て学ぶ」というスタイルだったが、これだと研修医が先輩医師のどんな背中(診療能力)を見て、どの程度それを習得したかはバラバラで、標準化された専門医は育成されない。標準化された専門研修カリキュラムが作成されて、家庭医の場合、CSAを含めた複数の多彩な評価方法を組み合わせた評価方法が発展してきた所以である。

 専門研修では、専攻医の生涯のキャリアにわたる発展の基盤を形成することになるわけで、指導する側の責任は重い。

葛西龍樹氏が「プライマリ・ヘルス・ケア」を担う人材育成の構築の必要性を指摘した「医療人材の育成方法にメスを 地域に必要な専門医とは」はWedge Online Premiumにてご購入することができます。
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