2024年5月7日(火)

都市vs地方 

2023年6月7日

 東京都に比べると他の都道府県の変化は小さいものの、変化したところはコロナ禍に転出超過の減少や、転入超過への転換を経験しており、東京都の転入超過の落ち込みがそれらの地域の変化へ波及したと考えられる。

東京都への影響

 このように、東京都の変化が著しいわけであるが、その様子をもう少し詳しく見てみよう。図4は東京都の転入超過数を18年1月から23年3月まで毎月示したものである。ここの転入超過数も総務省「住民基本台帳人口移動報告」のものである。

 これをみると、20年と21年の夏から冬にかけて、東京都では転出超過が続いたものの、年度末の2、3月は大幅な転入超過であったため、通年では20年も21年も転入超過になったことがわかる。また、22年は4月以降ほぼ横ばいで、23年になると年度末の転入超過の水準がコロナ禍以前に近い水準にまで回復した。この傾向が持続すれば、23年1年間の転入超過数は19年に近い水準になりそうである。

 図3の様子も勘案すると、23年の都道府県間の人口移動パターンはコロナ禍以前に近いものに戻っていくと思われる。

東京圏内部への影響

 最後に、少し範囲を絞って詳しく様子を見てみよう。図5は、いわゆる東京圏である南関東(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の市区町村の人口密度と転入超過数との関係を19年と比較する形で21年と22年について示したものである。

 図を作成する際に用いた市区町村人口は総務省「国勢調査」、市区町村可住地面積は総務省「統計でみる都道府県・市区町村のすがた」、市区町村転入超過数は総務省「住民基本台帳人口移動報告」の数字である。横軸に2020年の市区町村人口密度の対数値を、縦軸に市区町村転入超過数をとっており、左側の図で黒い点が19年の、オレンジの点が21年を表しており、右側の図で黒い点が19年の、赤い点が22年を表している。

 この左側の図から分かるように、19年に比べ、21年には全体として都心の人口密度の高い市区町村から人が流出し、郊外の人口密度の低い市区町村に人口が流入している。南関東の内部で都心から郊外に人が移ったかどうかは判然としない(都心から他の地域、例えば東北に人が流出し、他の地域から南関東の郊外に人が流入した可能性もあり得る)が、少なくとも東京圏の都心からは人が流出し、郊外には流入したことは分かる。

 これに比べて、右側の図からは、22年になると、都心からの明確な流出傾向はみられなくなったことがわかる。しかし、19年に比べると流入傾向が戻ってきたとも言い切れない水準である。

 図3の東京都全体への転入超過数の回復に比べると回復のスピードが遅いように感じる。一つの可能性として、新型コロナ禍を契機に導入されたリモートワークの影響が持続していることが考えられる。リモートワークを一部でも継続している企業があり、通勤可能範囲が拡大したり、在宅の必要性から郊外志向が高止まりしたりしているのかもしれない。もしこの傾向が持続すれば、東京圏内部の変化は維持される可能性がある。

 ポスト・コロナの地域政策を考えるうえで、新型コロナ禍の直接的、間接的影響を正確に把握することは極めて重要である。都道府県間の人口移動パターンへの影響は全体としてはさほど大きくなく、例外的に大きな影響を受けた東京都もコロナ禍以前の状態に戻りつつある。

 「コロナを経た新たな生活様式」や「地方移住」をいたずらに強調するのではなく、実際の人口移動の様子を注視する必要がある。もちろん、その際、東京圏内部に見えたように、まだまだ影響は残っている地域や要因があるなど集計レベルにより影響が異なり得ることは留意すべきであろう。

 
 『Wedge』2021年8月号「あなたの知らない東京問題 膨張続ける都市の未来」を特集しております。
 東京と言えば、五輪やコロナばかりがクローズアップされるが、問題はそれだけではない。一極集中が今後も加速する中、高齢化と建物の老朽化という危機に直面するだけでなく、格差が広がる東京23区の持続可能性にも黄信号が灯り始めている。「東京問題」は静かに、しかし、確実に深刻化している。打開策はあるのか─―。
 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。試し読みはこちら

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る