2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2013年8月16日

日米のバブル崩壊前とよく似ている

 まさにバブル潰しに奔走した日銀の三重野康総裁(当時)を彷彿とさせる内容である。日銀は1989年から90年にかけて5回にわたって公定歩合を引き上げ、金利水準は2.5%から6.0%に跳ね上がった。90年初以来、株価は暴落していたのに、三重野日銀は容赦しなかった。日銀のみならず、大蔵省(現財務省)もバブル潰しに躍起となり不動産関連業種への融資規制を導入した。結果は不動産バブル崩壊を引き金にした「失われた20年」である。

 忘れてならないのは、当時のマスコミも一般大衆も「平成の鬼平」に拍手喝采を送っていたことだ。その光景は今の中国にそのまま当てはまる。政権に就いた習近平国家主席(共産党総書記)が真っ先に行ったのは、綱紀粛正の大号令である。

 6月22~25日の共産党中央政治局会議では、「8つの規定の精神を断行する」と檄を飛ばした。8つの規定とは、過度な接待の防止などを柱とする行政と党内の引き締め策だ。28~29日の全国組織工作会議では、賄賂で官職を手に入れる「官職売買」に対する厳重な処罰を強調した。

 いずれも建前としては正しい。中国では急速な経済成長に伴い絶望的なまでに貧富の格差が拡大し、共産党の幹部であるかどうかで富と権力を手に入れられるかが決まる。そんな不公正な社会に民衆の不満は爆発寸前である。習氏は自らが党幹部の息子である「太子党」の一員であるだけに、そうした矛盾をひしひしと感じ、胡錦濤・温家宝政権が手を付けられなかった腐敗の問題に、あえてメスを入れようとしている。

習近平政権の綱紀粛正で中国の高級酒市場が打撃を受けている(「五粮液」は高級酒の一つ、提供:Imaginechina/アフロ)

 悩ましいのは、そうした綱紀粛正策が今の中国経済にとって、とてつもない重荷になりかねないことである。すでに接待の舞台だった高級料亭や袖の下に使われていた高額商品の売り上げは、今年春以降、急減している。

 業界団体のスイス時計協会によると、今年1~3月期の対中輸出は前年同期に比べて25%あまり減った。米経済紙ウォールストリート・ジャーナルによれば「中国政府の汚職取り締まりも一部の高級品の売り上げを圧迫しており、なかでも時計は特にやり玉に挙げられている」という。

 中国のネット市民が、しゃれた腕時計を身につけた役人の写真をアップすることを趣味にしているのだからたまらない。現に詰め腹を切らされた役人さえいる。魔女狩りのような綱紀粛正のムードが、景気を下押しするのは明らかだろう。


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