とはいえ、11年当時と比べて世界経済に変化が起き出したのも確かである。ひとつは、シェールガス革命や住宅バブル崩壊の調整過程の進展に伴って、米経済が復調しだしたことだ。米金融緩和の出口戦略が俎上に載り始めたのも、米経済が持ち直してきたからにほかならない。
もうひとつは、この日本である。安倍晋三政権が大胆な経済再生策を打ち出したのを機に、長らく低迷していた経済が息を吹き返しだした。今のところ金融緩和による円高是正が牽引役だが、米政府が円安を面と向かって批判する様子はない。軍事面などで中国が米国にタテを突きだしたことで、持ち駒である日本の国力を回復させた方が得策と考え始めたのだ。
日本にとっても、昨年9月に激化した尖閣摩擦は、不幸中の幸いといえるかも知れない。尖閣摩擦の前まで、日本企業の経営者は「中国需要を取り込む」との強迫観念にかられ、対中直接投資のアクセルを踏んでいたからだ。その間、米欧などは対中投資を減らし気味にしていたというのに、「遅れてきた青年」のような中国幻想に捕らわれていたのである。
尖閣ショックを機に、さすがの経営陣も目を覚まし、対中投資を抑制しだした。危ういかな、昨年秋までのような勢いで、中国の内陸部への投資やコンビニの全国展開に踏み切っていたら、大手の自動車メーカーや流通企業の屋台骨が揺らいでいたかもしれない。
「中国の消費市場が世界一になる」との指摘は依然として多い。それでも、対中投資に際しては「いつ放棄させられるか分からない」とのリスクが、幅広く認識されるようになったのは間違いない。
日本にとって救いなのは、米経済が上向きだしたお蔭で、対中輸出の落ち込みを対米輸出が埋めてくれたことだろう。今年1~5月には対米輸出額は対中を上回った。日中関係の悪化に伴う日本の実質国内総生産(GDP)の落ち込みにしても、大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは「最大0.1%程度(5000億円強)」と試算する。
中国が生産・販売拠点として期待できないなら、インドネシア、タイなどASEAN(東南アジア諸国連合)市場がある。尖閣ショックを機に、そんな当たり前の事実が明らかになったことで、経営者や投資家は中国経済のリスクに対し、比較的平静に構えている。
中国と一体化する韓国の危うさ
そんななか、国を挙げて中国に突進している隣国がある。韓国である。朴槿恵大統領の訪中は安全保障も経済も中国に委ねようという、かの国の姿勢を遺憾なく示した。70人を超える経済使節団の規模は先の訪米時の52人も上回る。