米バード大学教授で米ウォールストリート・ジャーナル紙コラムニストのウォルター・ラッセル・ミードが、6月19日付け同紙掲載の論説‘China Accepts the New Indo-Pacific Reality’で、ブリンケン国務長官の訪中について、中国がインド太平洋における新たな現状を不承不承受け入れたことを示しており、訪中は成功だった、と書いている。要旨は次の通り。
ブリンケンの訪中は、限定的だが確かな成功だった。習近平は、米中間の高官レベルの協議が軌道に戻ったこと、そして両国関係を安定させることに対するバイデン政権の関心を共有することを示した。
米国と再び話し合う(re-engage)との習近平の決定は、彼がこの地域、更にはこの地域を超えて、中国の優越性を主張するとの彼の長期的目標を放棄することを意味しないが、重要である。習近平のブリンケンとの会談は、新たな現状(status quo)を不承不承受け入れたことを示している。
習近平に話し合う用意がある理由を見出すことは難しくはない。まず、中国経済の成功にとって外国の投資・技術・市場へのアクセスはなお致命的に重要である。
次に、地域における米国の安全保障協力のネットワークの拡大を妨害することも、さしてうまく運ばなかった。日本、豪州、韓国のような米国の伝統的な同盟国およびインドのような新たな重要なパートナー諸国は、国防予算を増強し、米国との関係を強化しつつある。5月のパプアニューギニアとの協定によって、米国は同国の6つの地点へのアクセスを得る。パラオは攻撃的な中国船舶の行動を防ぐために米国の助力を要請した。
これらのパートナー諸国は、米国がこの地域に焦点を当てることを歓迎するが、中国との競争が制御不能となり地域の経済を混乱させることは望まない。もし、習近平がブリンケンに差し伸べられた手を拒絶したならば、北京が地域の環境の更なる悪化の責任を負わされることになったであろう。
北京は賢明にも最小限の抵抗という道を選んだ。その結果は、限定的だが歓迎すべき雪解けである。深刻な問題は残っている。軍と軍の間の連絡のチャネルを再開したいとのブリンケンの要請を中国は拒絶した。
ブリンケンの訪中は、交渉は強固な立場に立って行うことが常に望ましいとの外交における真実を証明した。
インド太平洋においては新たな現実が作り出されつつあり、北京の指導部は賢く実際的にこれに適応している。ここまでは順調であり、民主・共和両党はインド太平洋におけるバイデン政権の成功に喝采すべきである。
しかし、北京との関係を管理するための強さを米国に与える同盟とパートナーシップは軍事的な重みと他の主要国との経済関係の深さに依存している。米国の軍事支出は悲惨なまでに不十分であり、バイデン政権は真剣な貿易戦略を欠いている。これらの致命的な空白の解決に努めるまでは、バイデン政権がインド太平洋に築くことを希望している米国の力の殿堂は砂上の楼閣だ。
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習近平がブリンケンとの会談に応じたことが、両国が再び話し合う関係(engagement)に立ち戻ることに合意したことを象徴している。建設的な精神で両国関係を管理するという昨年11月のインドネシア・バリ島における両国首脳の合意に軌道に立ち戻る。両国の戦略的な競争は継続する。具体的な問題は何一つ解決した訳ではない。しかし、両国関係を互いに責任をもって管理し、安定化させる、そのためのコミュニケーションのチャネルを確立し、誤解と計算違いを避け、競争が衝突に転化することを防ぐという今回訪中の目的は達したとブリンケンは言明した。この論説は成功と評価している。