2024年11月27日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年7月5日

 北極航路が使用可能になること自体には大きなメリットがある。日本から欧州に至る南回り航路はスエズ運河経由で約2万1000キロメートルであり、欧州主要港へはコンテナ船で約30日以上かかる。だが、北極航路はこれより30~40%短い約1万3000キロメートルであり、そうなれば、日数短縮のみならず船舶の温暖化ガス排出も削減できる。

 ただ、問題もある。現在の北極航路は、概ねロシア沿岸に限られ、かつ、砕氷能力が必要だ。国際戦略研究所(IISS)によれば、砕氷船の数でロシアは他国に比べ群を抜いており、原子力船7隻とディーゼル船約30隻を保有している。一方、米国、中国ではそれぞれディーゼル船2隻が就航しているに過ぎない。それもあり、北極航路を航行する商業船舶の多くはロシアの砕氷船による水先案内に頼っており、これはロシアにとって大きなメリットとなっている。

環境問題が生じれば長期的影響も

 もう一つの問題は環境問題だ。北極海は米国の約1.5倍という広大な海域だが、海水の外海との入れ替わりは限られると言われる。そうなると、何らかの理由で汚染が発生した場合には、その影響は長期にわたり北極海と沿岸国にとどまることになる。今後、今以上に資源開発が進むことになれば、リスクは一層重大だ。

 更に、北極地域で特にロシアによる軍事利用増強が見られる。正に現在、北大西洋条約機構(NATO)を中心とした軍事演習が北極圏で行われているのも偶然ではない。北極沿岸の40%を占めるロシアは、こと北極に関しては、軍事基地の数などにおいてNATOに対し優位を持つ。

 以上のように、最近世界的な注目を浴びている北極圏だが、今後の活用を考えれば、ロシア抜きの対応はやはり現実的ではないだろう。ロシアはロシアで、現在の北極評議会を脱退して他国と別の組織を作るとしても、意味のある協力相手は中国以外おらず、先の展望は限られている。

 翻れば、ロシアと同室で議論し、実際、共同で対応している懸案も多々あるという現実に鑑みれば、困難な決断ではあるが、北極を巡る仁義なき闘いを招くのではなく、是々非々で可能な範囲で協調していくべきだろう。

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