6月5日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、「北極の寒気;中露の浸透の恐れ」とのRichard Milne同紙北欧・バルト特派員の解説記事を掲げ、ウクライナを巡る緊張に乗じて、中国とロシアが北極・天然資源への影響力を強める恐れがあると指摘している。
西側諸国は、中露が北極を巡る地政学的緊張に乗じ、北極とその豊富な天然資源への影響力伸長を試みるのではないかと懸念している。北極評議会の西側加盟国は、ロシアのウクライナ侵攻後、対露協力を停止してきた。北極評議会議長を5月にノルウェーに引き継いだロシアは、次の議長国の間にロシアが行事に招待されなければ脱退の可能性もあると発言した。
北極を巡って中露は伝統的には緊張関係にあったが、ロシアのウクライナ侵攻後、状況は変わりつつある。3月の習近平訪露の際、両国は「北極海航路」開発の共同機関創設を発表した。北極は最も急速に温暖化が進む地域で、各国は石油・ガスからレアアースに至る豊富な鉱物資源に注目している。
北極評議会メンバーは、地政学的摩擦が北極に影響を及ぼさないよう努め、全ての問題は共同でのみ解決されると強調してきた。しかし、ここ数年ロシアは北極での軍事的プレゼンスを強化し、デンマークやノルウェーなどは防衛施設構築で応じてきた。
中国は、北極地域に面しないが北極評議会にオブザーバーで参加している。2018年に北極シルクロード計画を発表し、北極への影響力を強めてきた。中国国営企業のグリーンランド空港建設計画は米国がデンマークに反対を働きかけ、2019年に中止された。
来週にグリーンランド訪問予定のデンマーク首相は、「ウクライナについても北極地域についても、われわれはナイーブではいられない。北極評議会の活動が元通りになるかと言えば、ロシアについてはそうではない。中国は北極地域で役割を持っているかと言われれば、イエスだ。」と述べた。
ノルウェーは、他の加盟国(米、カナダ、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、アイスランド)と共同で北極評議会活動を続けながら、ロシアの孤立化に努めている。しかし、ロシアの事実上の排除は明らかなジレンマで、一方で北極の40%を占めるロシアの参加なしには意味をなさないが、他方で今はロシアとは協力できない。
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日本国内ではあまり報じられていないが、上記は、ロシアのウクライナ侵攻は、北極情勢にも影響を及ぼしていることを指摘する記事の一つである。
この記事と前後して、6月6日に科学誌ネイチャー・コミュニケーションズで発表された論文によれば、北極圏の温暖化は予想以上のスピードで進んでおり、早ければ2030年代にも、9月中には北極圏の氷が完全に消滅する可能性があり、もし温室効果ガス大幅削減に成功したとしても、2050年代までには夏の間は氷がない状況が現出する由である。
ちなみに、これはあくまで夏の間の話であり、1年を通じて北極航路を安定的に使えるようになるのは、早くても今世紀末頃だと言われてきたが、この予想も早まるかもしれない。