2024年7月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年7月17日

 他方、政府・与党は科学的根拠に基づいて判断するとの姿勢を維持している。国会では、野党議員から「安全が検証されれば福島汚染水を飲むか」との執拗な質問を受け、韓悳洙(首相)は「(飲用)基準に合えば飲める」と述べた。また韓国政府は5月に調査団を日本に派遣、関係者と会談、関係施設を視察させた。

狙いは2008年の米牛肉輸入問題のデモの再現か

 野党の戦略は、2008年初夏の再現であろう。同年4月、大統領就任後訪米、意気揚々と帰国した李明博は、対米牛肉輸入譲歩をしたとして7月頃まで連日の大型反政府運動に直面した。連日のように光化門通りはデモ隊に占拠され、警察の車両は火を点けられた。7月には日本の教科書検定結果問題もこれに巻き込まれ、約1カ月間、日本大使館にもデモが押し寄せた。李明博政権はそれ以後反政府運動に極めて敏感になった。

 尹錫悦の下、日韓関係改善の努力は、今この問題で大きな試練に直面している。しかし今のところ、2009年の反政府運動の様な広がりは呈していない。野党にもあの時のような動員力は見られない。大手メディアは、野党に追随していない。この社説のようにむしろ批判的だ。尹錫悦政権が基本的立場を崩していないことも功を奏している。国民の関心は経済にある。また、日韓関係改善は大多数の国民の心底では評価されているように見える。世論調査会社リアルメーターによる7月3日発表の世論調査では、尹錫悦の支持率は42.0%で前週から3.0ポイント上昇、不支持率は前週から2.4ポイント下落の55.1%で、3週連続下がっている。

 韓国政府は7月5日、国際原子力機関(IAEA)が福島原発の処理水海洋放出計画は国際安全基準に合致するという内容の報告書を公表したことを受けて、「IAEAの発表を尊重する」とする立場を表明した。さらに、韓国政府は7月7日に独自の安全報告書を発表しており、それによれば、日本の処理水放出計画はIAEAを含む国際的な基準を満たすものであり、韓国周辺の海域への影響は微々たるものだとしている。他方、野党「共に民主党」は7月5日、IAEA報告書を「検証されていない空っぽの報告書」と攻撃、放出阻止闘争を継続すると発表している。しかし、「一部ではこれ以上使えるカードがない」と同党の悩みも出ていると言われる。

 実際の放出は、8月にも始まると報道されている。今後とも韓国政府には必要な情報を提供、理解を得ていくとともに、韓国国内情勢などを含め引き続き注視が必要だ。

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