2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2023年7月17日

突出したウクライナ支援を続ける米国

 そこで問題となってくるのが、米国側のこれからの対応だ。

 就任以来、一貫して対ウクライナへの積極支援を打ち出してきたバイデン大統領は、去る2月20日、首都キーウを自ら電撃訪問、ゼレンスキー大統領との会談で、継続的支援を約束した。最近では去る7月7日、民間被害が大きいとして国際的批判も少なくないクラスター弾供与を決断。テレビ会見でも「難しい判断だったが、そうしなければウクライナ側の戦況が一層不利になり、ロシア軍による残忍な攻撃が激しくなる」と弁護した。

 また、7月11日から2日間、リトアニアの首都ビリニュスで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でも、欧米加盟各国が集団ではなく、個別に対ウクライナ支援を続けることで合意した。

 この個別支援の中で飛びぬけて多いのが、米国であることはいうまでもない。

 Kiel Institute for the World Economyの集計によると、昨年2月のウクライナ侵攻開始以来、今年2月末までにNATO諸国が行ってきた対ウクライナ軍事支援総額は690億ドルだったが、このうち米国だけで7割近い466億ドルにも達した。

 さらに経済、人道援助を含めると、米国の支援総額は1130億ドルの巨額になると推定される。

 ウクライナにとって、西側の軍事・経済支援抜きに反転攻勢は不可能なことは自明の理であり、同国の命運は事実上、今後の米国からの支援いかんにかかっていることを如実に物語っている。

懸念されるトランプ再選による方向転換

 とりわけ、ゼレンスキー大統領が注視しているのが、米大統領選挙の行方だ。

 欧米各メディアが専門家の見方として伝えるところによると、共和党最有力候補のトランプ氏が再選された場合、ウクライナによる反転攻勢がとん挫するだけでなく、逆にロシア軍による攻勢が激化し、最後は極めて不利な条件下で、停戦に追い込まれかねないという。

 実際に、トランプ候補の過去の言動、そして最近の一連の発言は、こうした懸念を裏付ける根拠となっている。

 トランプ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻開始直後の2022年2月27日、右翼系ラジオ局とのインタビューで「プーチンはウクライナ領の大部分は〝独立国〟だと言っている。彼は何と賢い男か……これからさらに軍隊を送り込んでピース・キーパー(平和維持者)になるつもりだ」とコメントし、その決断に事実上の讃辞を送った。

 さらに数日後、ロシア軍の大規模作戦が展開されると、フロリダ自邸近くの政治集会で「賢明なプーチン」と対比させたNATO諸国に言及し「彼らは『侵攻したら制裁を科す』などと言っているが、まるで腰抜けだ。過去25年間、ロシアに同じことを言い続けてきたが、プーチンはそんな脅しをものともしなかった。NATO指導者たちは愚か者だ」と酷評した。

 同年3月10日、トランプ氏は、「Fox News」テレビ番組に特別出演、ウクライナ戦争問題についてさらに踏み込んだ自説を展開したが、司会者が繰り返し、「プーチンは犯罪者」であることを認めるよう迫ったのに対し、最後までプーチン批判をしなかった。

 さらにプーチン氏との関係については、「彼とは非常に力のこもった会話 (a very strong conversation)をした。会話の中身に立ち入ることはできないし、だれも知るべきではないが、(自分に任せてくれていれば)ロシアによるウクライナ侵攻もあり得なかっただろう」「私は彼らとうまくやってきたし、彼らも私とうまくやってきた。だからといって、彼らが善良な人間であることを意味しない。ただ、彼らのことはよく理解できるし、彼らも私のことを理解してくれていた」などと述べた。

 当初からプーチン氏に理解を示してきたトランプ氏のウクライナ戦争に対するスタンスは、来年選挙への出馬表明後も基本的に変わらない。

 今年5月10日、ニューハンプシャー州タウン集会で、「ウクライナ戦争でどちらが勝者になるかは問題ではない。ロシアもウクライナも直ちに戦争をやめるべきだ。私だったら、24時間以内に戦争を終わらせる」と述べ、さらに、大統領に再選された場合の、対ウクライナ軍事支援継続の可否については「われわれはすでに、大量の兵器をウクライナに供与してきた。やりすぎた結果、わが国自身の防衛のための弾薬が不足している」と否定的見解を開陳した。


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