また、6月29日、英ロイター通信とのインタビューで、以下のように語っている:
「自分は、このとんでもない戦争で死者が出るのを終わらせたいと思っている。米国が今やるべきことは、和平をもたらすことだ。ロシア、ウクライナ双方を話し合いの場に座らせ、平和を作り出すべきだ。今まさに、その時が来ている」
「ワグネル・グループの反乱で、プーチンの威信は傷ついたことは確かだ。しかし、彼は依然として健在であり、ロシアの最高指導者であることに変わりない。その彼と話をすることが重要だ」
「プーチンについては、去る3月、国際刑事裁判所で『戦争犯罪人』扱いにされたが、彼の処遇に関する議論は、戦争終結後にすべきだ。なぜなら、今、戦犯問題を持ち出したら、和平は実らず、この戦争は永遠に終結しないからだ」
危ぶまれるゼレンスキーの立場
このほか、トランプ氏とゼレンスキー大統領との個人的関係も、決して良好とは言い難い。
とくに、相互不信の象徴として挙げられているのが、トランプ大統領在任当時の確執だ。
去る19年7月29日、前回大統領選での再選を目指していたトランプ氏は、ホワイトハウスからゼレンスキー大統領に直接電話を入れ、その中で、過去のウクライナでのビジネス取引で疑惑が取りざたされたバイデン民主党大統領候補について、ウクライナ検察局による捜査を強要した。
そして捜査に応じない限り、米側のウクライナ軍事援助を凍結するとともに、ゼレンスキー氏のホワイトハウス訪問と首脳会談にも応じない旨、電話口で伝えた。
結果的にトランプ氏は、この問題が明るみに出るに及んで、同年12月、米下院本会議において①権力乱用、②議会妨害の2つの容疑で弾劾された。
それ以来、今日に至るまで、ゼレンスキー氏の対トランプ不信感はぬぐい切れていない。
こうしたことから、ワシントンの専門家の間では、もしトランプ氏が来年選挙で再選された場合、ウクライナの今後について、以下のような最悪シナリオも話題に上っている:
・米国の対ウクライナ軍事援助縮小により、これまでウクライナ軍側が奪回したか、奪回しつつある領土のほとんどがロシア支配下にはいる
・トランプ政権誕生後、ゼレンスキー大統領の地位低下と、指導力喪失により、ウクライナで新たに大統領選挙が行われ、プーチン氏に同情的候補が登場する可能性がある
・その結果、ロシアと共存の『ウクライナ統一国家』が誕生、『1民族2国家』というプーチンの野望が達成される
・米国の世界的信用は失墜し、プーチン指導下のロシアはNATO加盟国の中のロシア近隣諸国に軍事攻勢を仕掛ける
なお、英国有力誌『Economist』も、去る7月11日、トランプ再選とウクライナ情勢との関係を論じた最新記事の中で、「トランプは、24時間以内に戦争を終わらせると言っているが、それを額面通りに受け取るとすれば、対ウクライナ軍事支援を停止し、ロシアが進軍したウクライナ領をそのまま確保することになる。タガの外れたトランプのホワイトハウス復帰は、ウクライナにとって悲惨な結果となる」と断じている。
ただその一方で、ゼレンスキー大統領が、引き続き米欧同盟諸国からの継続的支援を背景に反撃を有利に進め、ウクライナ・ペースの停戦交渉の道筋が明確に見えてきた場合、トランプ氏がウクライナ関与に消極的な従来の立場をとり続けるとは限らない。
その意味でも、今秋にも、ウクライナ側の大規模反転攻勢が予想される今後の戦況をこれまで以上に注視していく必要がある。