平均取得日数が「100日」越え
技研製作所の育休支援
男性の育休取得で大きな成果を挙げているのは、建設機械メーカーの技研製作所(高知県高知市)だ。グループ連結での社員数は約690人、全体の8割を男性が占める同社の特筆すべき点は、男女の育休取得率が100%、男性の平均取得日数が「100日」を超えていることである。18年度までの10年間で育休を取得した男性社員は「0人」という状況から、3年間で大改革を成し遂げた背景には、若手の女性社員を中心に構成される「ポジティブ・アクションプロジェクト(PAPJ)」の活躍があった。
PAPJは、活動を通じて「男性中心の会社」という同社のイメージを払拭し、多様な人材が活躍できる魅力的な企業を目指すために18年に発足した。少子化や女性活躍という社会課題に企業としてどう取り組むべきか、また、女性社員が自社でキャリアプランを描くうえでは何が必要か─。出した答えの一つは、女性の家事・育児の負荷を軽減させるために、「男性を家庭に戻すこと」であった。
プロジェクトマネージャーを務める簑田美紀執行役員は「男性が1~2日間の『取るだけ育休』を取得しても、女性の負担は軽減されません。長期間育休を取得することが女性を救う処方箋になると考えました」と振り返る。
同社が長期の育休取得を後押しする仕掛けは二つある。一つは育休中の収入面での不安を解消させるために創設した「育児休業支援金」だ。これは、「3カ月以上育休を取得する」というシンプルな条件を満たした男女の育休取得者に最大15万円を支給し、育休中も育休前と同等の手取り収入を保証することで長期の育休取得を促進するインセンティブとなっている。今年7月には「月最大5万円を最長12カ月支給する」という制度拡充を行った。
もう一つは育休を取得しやすい雰囲気の醸成だ。特に中堅の管理者層に対する働きかけが必要だった。そこで、育休取得希望者とその上司に向けた説明会を実施し育休の必要性を地道に訴えかけたり、経営層が男性の育休取得に前向きであることをメディアを通じて積極的に伝えたりすることで、経営トップが育休取得を推進しているというメッセージを社員間に浸透させた。今では、上司から部下への声掛けが「育休取るの?」から「育休はいつ取るの?」に変わってきたという。
21年と23年の2回育児休業を取得した事業企画課の武田知也主任は「特に、2回目の育休時は部署も事前のフォローをして下さり、躊躇なく安心して取得できた。周りの社員に育休取得経験者が増えており、育休が取得しやすい雰囲気を感じる」と話す。
簑田氏は「育休取得により一時的に業務に影響が出ることは確かですが、お互いの理解と仕事のやり方を変えることでカバーし合うことが重要です。また、夫婦が一緒に子育てをすることで家庭の安定や本人の生産性向上にもつながります。男女ともに働きやすい環境を整えれば採用競争力も高まるので、長期的に見れば男性育休は社会の好循環を生む『人的資本投資』と捉えることもできます」と話す。
前出の山口教授は言う。
「男性にとって働きやすい会社は、女性にとっても、子どものいない社員にとっても働きやすい会社ですし、社員のエンゲージメントも上がるでしょう。女性が活躍するような職場では社内に多様性が生まれ、良いアイデアが出やすくなります。BtoCの企業では、さまざまな商品開発に発展し、最終的な企業利益にもつながります。経営者は企業価値向上の第一歩として男性育休を理解してほしいです」