同僚に育休取得者が出ると
最大10万円が支給
社会課題の解決に寄与することが損害保険会社の務めである─。この理念を掲げ、少子化対策の推進に取り組むのが、三井住友海上火災保険だ。
同社は7月から、育休取得者がいる職場の社員一人ひとりに対し役職に関係なく最大10万円を支給する「育休職場応援手当(祝い金)」を新設した。育休取得を躊躇する原因の一つとして挙げられる「同僚への罪悪感」を取り除くために、育休取得者の仕事をカバーする同僚にスポットを当てた。
この制度を実現できた背景には、経営トップの力強いリーダーシップがあった。同社の舩曵真一郎社長が就任した21年4月以降、「少子化」や「産後うつ」という社会課題に着目し新たな制度を次々と打ち出した。同年6月には配偶者が出産した男性社員の1カ月の育休取得を義務化し、「男性が育休を取ることにより昇進や昇格に影響を与えることはない」と明示した。さらに22年12月には、春闘に向けて少子化対策に関わる人的投資の施策を検討するよう人事部門に指示をした。
人事部内のブレストでは、第一子は100万円、第二子は200万円、第三子は300万円など、出産した社員への経済的補助を増やす舩曵社長案が示された。しかし、祝い金導入のキーマンとなった人事部主席HRストラテジストの丸山剛弘氏の意見は違った。「これまでもさまざまな育児支援策を充実させてきたので、これ以上産育休者本人の手当を増やしてもかえって申し訳ない気持ちになるのではないかと考え、周囲と喜びを分かち合う祝い金の導入を提案しました」と振り返る。
「同僚に子どもができたら『おめでとう』と祝福するべきですが、心のどこかで『負担が増えるかも』という気持ちを抱く社員がいるかもしれません。祝い金制度は、みんなが笑顔で産育休社員を送り出せるきっかけになるはずです」
本稿で見てきたように、企業経営者の判断は社員の生活、ひいては、人生に大きな影響を与えうる。経営者の決断と実行は、「子育てしやすい社会」の実現には欠かせない要素の一つなのである。
経営学者で「人を大切にする経営学会」の坂本光司会長は次のように話す。
「『生みにくい』『育てにくい』の責任の一端は、社員の夢や希望を奪っている企業にあります。1割でも2割でもいい。経営者が考え方を改め、大企業・中小企業を問わず、社員を大切にすることが当たり前の会社が増えていけば国が莫大な予算を投じなくても、少子化の課題解決に向け、大きな原動力になっていくでしょう」