2024年11月21日(木)

日本の医療〝変革〟最前線

2023年7月21日

 これら現物サービスを利用者が自由に「自己選択・自己決定」できるほどサービス提供事業者を増やしたのが介護保険制度。事業者の参入基準をかなり緩めた。同様の仕組みを育児サービスとして創出すればいい。「育児の社会化」である。

 ところが、「育児の社会化」の声は一向に聞かれない。現実は「子育ては社会全体で」に止まる。介護保険を主導した識者でも「育児は社会化でなく、まず家族が担うべき」とつれない。

 北欧では、「子どもは社会の宝」との格言がある。動物の中でヒトの赤ん坊は最も脆弱。集団(社会)で育てるのが自然の摂理と指摘する生物学者もいる。

カギは男性の働き方改革

 少子化問題は、こうした社会の構造的な問題の帰結である。抜本的な意識変革と社会構造の見直しが必要だ。

 とはいえ、すぐに着手できる対策もある。性別役割分業を崩す最善策は父親の育児休業である。新生児から家事・育児に関わることで、「会社人間」が「社会化人間」に変わっていく。日本人男性の育児休業取得率は14%に止まる。

 家事・育児分担の比率が男女で近い国ほど出生率が高い、という研究事例もある。

 経団連の十倉雅和会長は2期目を迎える5月末の会見で、重点課題として少子化対策を挙げた。「家事や育児について男性が女性を『手伝う』という意識が消えるまで働き方改革が必要。『手伝う』と言う限り、女性の仕事だと思っている」との踏み込んだ発言で周囲を驚かせた。

 男性の育児休業についても「取得率ばかり言われるが、取得日数が大事だ。1回でもカウントするのは問題」と指摘した。

 これだけジェンダーギャップに理解があるならば、男女の賃金格差や非正規雇用、長時間労働なども経済界を挙げて取り組むべきだろう。

 男女が分け隔てなく「共働き・共育て」できる道筋を築くのは容易でない。強制力が欠かせない。欧州諸国はクォーター制を導入して政界の男女差を解消した。

 企業の働き方改革にも罰則制度を取り入れるも一考ではないか。障害者の雇用比率と同様の方式を企業に課すことも考えられる。育児休業で一定の該当者比率に達しない企業から反則金を徴収する。

 企業を巻き込む施策として「子ども・子育て拠出金」の活用が有効だろう。従業員の標準報酬月額に一律0.36%を掛けた金額を企業が拠出する仕組みである。児童手当や放課後児童クラブ、それに企業主導型保育事業などに使われている。従業員の負担はない。この負担率を1%に上げると、拠出金の総額は現在の約6000億円から約1兆6000億円に増える。

 憲法第14条は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とある。現実がこの条文に一致するのはいつの日だろうか。

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