根強い日本的雇用慣行
そうした「不平等家族」によって支えられているのが日本的雇用慣行だ。深夜残業を含む長時間労働、単身赴任が前提の転勤制度、加えて男女の賃金格差などが上場企業にも浸透している。
女性に偏る非正規労働者の急増もある。こうした歪な悪しき雇用慣行の副作用が少子化をもたらした。元凶は職場にある。
家族と雇用慣行の2大不平等が日本と並ぶのが韓国だろう。なにしろ、1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す合計特殊出生率が2022年に0.78に落ち込み、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国で唯一1.0を割り込み、最低である。1.26の日本も東京では1.04で後追い中だ。
男女平等度は、世界経済フォーラムが公表する「ジェンダーギャップ指数」で一目である。この6月の発表では日本が125位、韓国が105位だった。北欧諸国が上位を独占した。
次いで、女性の働きやすさランキング。英誌エコノミストが3月8日に、OECD加盟国中の29カ国を発表した。上位4カ国は北欧で、韓国が最下位、日本はその前の28位だった。日韓両国は7年連続で同じ順位だ。
男女の賃金格差も韓国は大きい。女性の賃金水準は男性より31%も低い。OECDの平均や日本を下回る。
出産前の法的な婚姻にこだわる日韓両国。従って婚外子の比率でも日韓両国の突出した順位が目を引く。フランスは62.2%、スウェーデン55.2%、英国44%、米国40.5%などだが、日本は2.4%、韓国は2.5%と桁違いに低い。
欧米では結婚制度を超越した形態が広がった。フランスのPACS(パクス、連帯市民契約)、スウエーデンではサムボ(同棲)と呼ばれるパートナーシップ制度が新しい家族を生み出している。
家族とはいえ、主役は「個人」とする考え方だ。家族を一塊として捉え、社会の基盤として位置づけるものではない。個人の多様性を重視する考え方が世界で浸透しつつある。LGBTQへの取り組みはその好例だろう。日韓両国では、個人の多様性に腰が引け、性別役割分担観が根強い。
家族の変化を映すのは同性婚の普及だろう。34もの国・地域が同性婚を導入している。01年にオランダで初めて認められ、11年に国連人権委員会が性的指向や性自認ゆえの差別や暴力に「重大な懸念」を示す決議を採択。それ以降、世界的潮流となる。
日本では岸田文雄首相が「社会が変わってしまう」と、二の足を踏む発言を繰り返す。
同性婚は性的少数者の権利擁護だけではなく、一人の人間としての個人の自由な意思、選択を妨げないという観点からも普遍性を持つものだろう。
転換すべき「育児の社会化」
従来の家族一体観でない個人の尊重という観点から日本の社会保障制度を振り返ると、成功した介護保険制度に思い当たる。これまでの医療保険や年金、生活保護などの諸制度はいずれも家族(世帯)が基本単位であった。ところが23年前にスタートした介護保険制度だけは、本人を単位とし家族ではない。
同居家族の有無や多寡、属性などと一切かかわりなく、本人の心身の状況に応じて保険サービスが提供される。
加えて、介護保険制度は「介護の社会化」を謳い国民的共感を得た。脱「家族依存」であり、女性の社会進出の背を推した。現金の給付ではなく、介護サービスという現物給付に徹した。
育児に応用すると、介護ヘルパーに相当するのはベビーシッターであり、デイサービス(通所介護)に相当するのは保育園である。両サービスをひとまとめにした小規模多機能居宅介護は育児サービスにはまだない。