2024年5月15日(水)

Wedge REPORT

2023年8月2日

美容室を〝まちの保健室〟へ

 モリタでは、「美容室をまちの保健室へ」という取り組みに向けた健康セミナーを始めたことが注目される。

 きっかけは、多忙で健康診断を受ける機会に乏しい美容師への健康セミナーを考えたことにあった。一方の美容師は、顧客から健康の悩みを打ち明けられることが多い。月経トラブルや更年期障害など女性特有の病気について美容師が知識を得ることは、美容室を訪れる女性客への助けにもなる。

 モリタは今年3月、美容師向けに初めて月経や更年期障害など女性が抱える問題についてセミナーを開き、8月以降に本格化する予定だ。講師を務める産婦人科医で富山県議会議員でもある種部恭子さんは、こう説明する。

 「更年期障害はホルモン療法で改善します。更年期治療は、老年期の医療・介護ニーズを下げる投資にもなります。更年期障害を放置すると、老後の健康にも大きく影響します。月経トラブルや更年期、DVやハラスメントによる体調不良などは、医療機関受診を躊躇するケースが少なくありません。少し体調が悪い程度だと婦人科を受診するのにハードルの高さを感じる人も多く、見過ごしてしまうことも。美容師がアドバイスできるようになることで、元気に過ごせる人が増えて欲しい」

 モリタの角崎誉栄社長は「企業は自社の利益だけを求めるのではなく、誰かのため、世の中のためにあってこそ長続きするという、創業者の想いを引き継いでいます。だからこそ、定期的に通う美容室が、多くの女性の更年期障害などのセルフチェックの窓口になれるよう、『美容室をまちの保健室へ』に力を入れたいと思ったのです」としている。

 また、富山市の市街地にあるプロ用美容商品専門ショップ「ベレーザ・エ・ヴィータ」がある5階建ての自社ビルにはホールがあり、セミナーを開くことができる。別のフロアにはシャンプー台が備えられているスペースが設けられており、フリーランスとして活動する美容師の開業準備のためにそのスペースを貸し出す計画を立てている。角崎社長は「働き方が多様化するなかで、フリーランスで頑張ろうという美容師がやりたいことを実現できるようサポートしたい」と話し、美容業界全体の活性化に取り組む。

ベレーザ・エ・ヴィーダのレジに並ぶ角崎誉栄社長(左)と松澤宏至取締役(Wedge)

 松澤宏至取締役総務部長は「私たちには、『誰ひとり取り残さない』という考えがあります。たとえば、営業が不得意でも企画を立てるのが得意な社員もいます。誰でも何か持っているものがある。ならば、その人が得意な分野で活躍できる部署を作ればいいと、新しく企画部を作ったこともあります」と言う。そうした考えが社内に留まらず、業界全体、地域全体に及んでいることで企業の信頼を得ているからこそ、創業88年という歴史を刻んでいるのだろう。


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