100年続く企業には子育て社員を大切にするほか、もう一つの共通点がある。それは、業界全体の活性化を考える地域貢献型の企業であることだ。
能作の場合、産業観光事業を「地域の伝統産業である鋳物づくりを知ってもらう入り口」と考えており、日々、受け入れている工場見学は無料で行っている。スタッフが工場を案内し、職人の仕事を知ることができる。能作の工場を見学してから毎日のように「職人になるにはどうしたらいいか」と親に尋ねる子どももいるという。
高岡市は銅器や漆器の伝統産業の歴史があることから、構造改革特別区域計画を活用して2006年度から市内の小・中学校で「ものづくり・デザイン科」の授業をスタート。市独自の必修科目として、小学校高学年になると地元の工芸技術者の講義を受け、工場や工房で銅器や漆器作りについて学ぶ機会を得ている。それとは別の機会にも能作千春社長は小学校や中学、高校などで講師に招かれることが多い。
能作社長が関わった小学校5年生の授業では、キャリア教育の一貫として3~4か月かけて雑巾を作って保護者に販売した。マーケティングや広報をはじめ、原価計算を学びながら授業が展開された。授業が始まった頃、仕事に対するイメージについての児童のアンケートは「苦しい」「大変」という言葉が多かったが、雑巾を作る過程で「楽しい」「嬉しい」に変化していった。そうした変化を目の当たりにした能作社長は「そもそも、仕事は楽しいものです。ものごとを純粋に吸収できる小学生のうちに、企業が子どもたちと関わることが重要だと痛感しました」と話す。
また、能作は鋳物の魅力を伝えるための実店舗を重視する。能作社長は「実店舗は物を売っているだけではなく、能作の商品の背景にある想いを伝えるためにある大切な存在です。錫で作った食器や花瓶はお祝いで贈られることが多く、ご縁が続きます。能作は物を作っていますが、幸せを提供するという想いでいます。それを伝える場を多く作りたい」と言う。
この「能作の想い」を伝えるため、パートやアルバイトを含め全店舗の販売スタッフを高岡にある本社に招いて研修を行っている。能作の「人と地域を大切にして、鋳物の伝統産業を進化させる」という姿勢が、鋳物業界の発展につながっているのだろう。