2024年5月19日(日)

勝負の分かれ目

2023年7月30日

 強烈なパンチで数々のKO劇を演出してきた井上も、今回のタフな相手に対してはKOへのこだわりを封印し、試合後には「判定でも勝つことが大事だと思っていた」と打ち明けた。

相手を術中にはめる試合展開

 ところが、いざゴングが鳴ると、序盤の攻防から主導権を握ったのは、井上だった。

 立ち上がりのジャブの攻防。大橋秀行会長は「技術戦で勝っていた。あそこまで技術戦で上に行っているとは思わなかった」と井上の技術とスピードを賞賛した。

 かすかに首を振るフェイントで揺さぶり、相手が拳を出すタイミングを計りつつ、自らの左ジャブを打ち込む。ハイレベルな駆け引きで相手よりも優位に立つと、2ラウンドでは相手に「打ってこい」とジェスチャーするほどの余裕も見せた。

 ボクシングにおいて、守りを固めて下がる相手を倒すのは難しいとされる。KOには、相手の意識が防御一辺倒ではなく、攻撃にも向いて前に出てくる状況を作る必要があるからだ。

 「前半の1、2、3、4ラウンドは絶対にポイントを譲らずに戦って、そこからフルトンが出てこないといけない展開をつくりたかった」

 ポイントでリードすれば、相手は中盤から前に出てこないといけなくなる。その中でいくつかパンチをもらい、7ラウンドはジャッジが3人ともフルトンにポイントを与えた。その気になったフルトンは、すでに井上の術中にはまっていたと言ってよかった。

 攻め気のフルトンに対し、井上は相手の防御の穴を探り、練習を重ねてきた「左のボディーに、右のストレートを重ねる」という〝獲物〟の目が追いつかないほどの上下の打ち分けからKO場面を演出した。

 バンタム級とスーパーバンタム級の体重の上限差は約1.8キログラム。格闘技の世界でこの差はパンチの重さ、パワーにおいて大きな差があるといわれる。しかも、フルトンは一つ上の階級に上げてもいいほどの体格だった。

 バンタム級では「最強」と言われた井上に対し、この点を懸念材料に上げる声は試合前にあったが、井上は試合後、ほとんど腫れていない顔で「スーパーバンタムの壁を感じることなく、戦うことができた。この階級でやっていけると思った」と平然と言い放った。

注目試合で高めた動画配信サービスの認知

 「ボクシング界において、人気、実力両面で、彼ほどのスターはいない」。メディア関係者がこう絶賛するほどの注目度は今回も格別だった。

 この試合は、NTTドコモの映像配信サービス「Lemino」で独占無料生配信され、元WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太、元WBC世界スーパーバンタム級王者の西岡利晃、元世界3階級制覇王者の長谷川穂積、元世界2階級制覇王者の畑山隆則という豪華な4氏が解説を務めた。

 かつて地上波の「ドル箱」と言われたボクシング中継も近年はインターネットによる動画配信が主戦場となっている。Leminoは、NTTドコモが昨年12月に行われた井上の4団体王座統一戦を中継した映像配信サービス「dTV」をリニューアルし、今年4月にスタートしたサービスだ。試合が行われた黒がベースのリングはLeminoのロゴ入りで、大きな注目を集めた。


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