2024年12月5日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月9日

 2023年7月13日に公表されたドイツ連邦政府最初の「中国戦略」について、7月14日付の独フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)は、「既存の手段を束ねると同時に、新たな手段も示唆している」とジュリア・ロア特派員らの解説記事を掲載している。

(Rawf8/gettyimages)

 「中国戦略」(以下、「戦略」)についてベアボック外相は、「近年の中国の行動から生じたチャレンジに立ち向かう」「自由で民主的な基本秩序を危うくすることなく中国と共働する方途を示す」と述べ、中国戦略への大きな自負を示したが、「戦略」がそのような自負に見合うものかは定かではない。

 「戦略」では国家安全保障戦略と同様、「(中国は)パートナー、競争者、システミックなライバル」との「三和音」が使われ、今回は重点が競争者、ライバルの方向に変化した。具体的には、「両国は国際秩序の原則につき異なる見解を有している」、「一党体制の利害に基づいて国際秩序に影響を与え、その際、ルールに基づく秩序の根幹(例えば人権)を相対化しようとする行動を懸念している」などと記述された。また、国家安全保障戦略と異なり、「台湾海峡の現状の変更は平和的に、かつ、相互の一致に基づいてのみ行われるべきである」、「(台湾海峡での)軍事的なエスカレーションはドイツと欧州の利害に関わる」として、台湾が明示的に言及されている。

 ドイツ経済は、中国への依存度が高いため、「戦略」では主に既存の手段が挙げられている。非欧州連合(EU)加盟 国によるドイツ企業の買収について、「戦略」では、投資審査の手続きを規定する現行の対外経済令に代わり、新たな法律を制定するものとされている。また、政府による対外投資の保証を一国または一企業当たり最大30億ユーロに制限すると言及している。ハーベック経済相は、昨年、ドイツ企業による対中投資が増加する中、この上限を導入し、また、昨夏、フォルクスワーゲンが新疆工場を含む対中投資保証の延長を申請した際、新疆での人権侵害を理由に申請を却下した。

 「戦略」が本当に機能するかは今後証明される必要がある。最初のハードルは、ドイツの5Gにおいて中国製の部品を欧州製品で置き換えるかという問題であり、現在、検討が進められている。また、「戦略」に関する体制としては、「中国に関する事務次官レベル会合」を設置し、政府は定期的に「戦略」実施の進捗を報告するとされている。

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 国家安全保障戦略に1ヶ月遅れて「中国戦略」(全61頁)が公表された。

 中国は「パートナー、競争者、システミックなライバル」であり、このうち競争者とライバルの方向にシフトしているとの認識は、国家安全保障戦略と軌を一にするもので、同時に、随所で協力の可能性を引き続き追求することが強調されている。全体として、国家安全保障戦略よりは中国に対して懐疑的、厳しいとの印象は与える。上掲解説記事と同日に掲載されたFAZ 論説も「中国への懐疑」との題名で「戦略では懐疑的トーンが目立つ」、「連邦首相が企業首脳の引率者として訪中することが対中政策であった時代は終わった」と書かれている。


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