特に、台湾について全く触れなかった国家安全保障戦略とは異なり、「台湾海峡の安全は地域および域外の平和と安定に死活的に重要である」とし、上掲解説記事の通り、台湾海峡での軍事的な行動はドイツと欧州の利害に関わるなど、台湾への関心が窺える。また、国際機関への台湾の実務的な参画を支持することも表明された。更に、人権問題についても、独立の一章を設け、新疆、チベット、香港に加えて、人種的・宗教的共同体、人権活動家まで挙げて問題視している。
今回の「戦略」で目を惹くのは、経済関係の記述である。これは、ドイツの関心を示すもので、中国に厳しいとされるハーベック副首相兼経済相の意向が反映されている可能性もある。デカップリング(切り離し)ではなくデリスキング(リスク回避)を目指すことは周知の方針の確認であるが、加えて、公正、公平な競争条件や相互主義の重要性も強調されている。
具体的な措置については、①上掲解説記事の通り、対外投資への政府保証の上限(一国あるいは一企業当たり30億ユーロ)を中国にも適用し、その際、環境・労働・社会基準の遵守と強制労働・児童労働の回避を重要な判断基準とする、②経済的威圧に対するEUの対抗手段を支持する、③外国による投資のドイツの安全保障への影響に対処するため、現行の投資審査法の効果を見直し、新たな法律とする、④重要インフラを定義する「重要インフラ基本法」を制定することなどが記述された。
欧州の取り込みを図る中国
中国は、「戦略」を批判しつつも、「独中両国の間には相違よりも多くの一致があり、双方はライバルというよりパートナーである」と述べるなど、現下の米中対立の中で、中国がEU、中でも独仏を取り込もうとしているのがわかる。
いずれにしても、上掲解説記事が、「『戦略』がそのような(ベアボック外相が言うような)自負に見合うものかは定かではない」とコメントし、また、同日付FAZ論説が「この文書についても『言うは易し』が当てはまる」と辛辣であるように、「戦略」が今後、どのように具体的に実施されていくのかを注視する必要があるだろう。