現在は人材の質に問題は見られていないが、今の小学生が社会人になるころ、顕在化する可能性がある。金融は高い専門知識が必要なだけに、高い教育水準を維持できるかどうかについて楽観はできない。
観光地としてのイメージにもほころび
18年には年間6500万人の観光客が訪れる世界屈指の観光都市だったが、19年の逃亡犯条例改正案に端を発した大規模なデモと、翌20年の国安法制定で香港のイメージは悪化。また、コロナによる〝鎖国〟は他国・地域よりも厳しく、開国が遅れた。そのため、香港が観光地としての選択肢から消えてしまった。
この状況に大きな懸念を抱いた香港政府は23年3月より、世界各国・地域に50万枚の往復航空券を配布する大規模キャンペーン「World of Winners」を展開し巻き返しを図った。
ただし、プロモーションをしなくても来港してくれる香港ファンがチケット獲得に走るため、50万人すべてが新規の観光客というわけにはいかないのは頭の片隅に入れておいた方がいいだろう。そして、初めて香港を訪れた人が再び香港を訪れるかどうかは、悪化したイメージと香港観光の良さを天秤にかけた上で、新たな香港ファンやリピーターが生まれる。
そう、香港全体として、新規の観光客にどれだけ〝おもてなし〟をできるかにかかっている。観光地としての香港の復活もまた課題が見え隠れしている。
香港から出ていく外資系企業
国際都市である香港は、世界的企業が多く支店を構えるほか、アジアにおける地域本部を置いたりする場所だ。しかし、国安法はレッドラインがわからないため香港を断念または縮小する企業が出始めた。
欧州の高級ブランドグループ、モエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)は、香港のモエヘネシー酒類部門に従事する従業員の一部をシンガポールに移したほか、無料通信アプリLine(ライン)で有名な韓国ネット大手、ネイバーはデータを保管するバックアップサーバーをシンガポールに移転させた。また、香港の大手コスメ販売チェーンのSASAは一度撤退していたシンガポールへの再進出を計画している。
かつて「明るい北朝鮮」と言われたシンガポールが独裁政治から民主化への道を歩み始めている一方で、民主的だった香港がその逆を行っているだけに、この流れが止まるのは難しいと言えよう。
ほかにも、フェイスブックとグーグルはロサンゼルスと香港を結ぶ海底ケーブルの敷設計画を撤回するという事案も発生している。
今後、新たにアジア進出を考える外資系企業は、香港ではなく、台湾、韓国、シンガポールなどが候補地となり、観光と同じように香港が最初から選択肢に入らない状況が出てきている。