2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年8月29日

 問題はこれだけではない。中国のソーシャルメディアの書き込みでは、一部の水産市場で客の姿が完全に消えたという。写真を見ると、中国の田舎町の市場で高級な日本産水産物が売られているようには見えない。中国で捕れた魚だってなんか不安だと避けた結果なのだろう。

 24日の中国外交部記者会見では、「福島の処理水が日本列島周辺海域を汚染したことが心配だというのならば、朝鮮半島やロシアの周辺海域も心配ですよね? これらの国の水産物を輸入禁止しますか?」という鋭い質問が飛んだが、報道官は「中国政府は一貫して人民至上を堅持しており、食品安全と中国人民の身体健康を守るためにすべての必要な措置をとる」という答えになっていない回答で逃れた。

 政府の代わりに、中国のソーシャルメディアやネット掲示板には中国人民の不安を解消しようという人もあらわれた。処理水の放射性物質はコントロールされており、国際原子力機関(IAEA)が監視しているので日本はごまかせない。そもそも中国の原発も毎年、処理水を上回る量のトリチウムを放出してきたが健康被害はなかった。こういった内容だが、軒並み削除され、さらにはアカウント停止などの処分を受けている。政府の指示なのか、企業の自主検閲なのかは定かではないが、このように情報が遮断されている状況では買い占めに走る人や、過剰に不安を抱く人がいてもあまり非難はできないように思う。

過剰にあおった不安の先は

 ここまで不安をあおってどう着地するのか、中国の事業者にも被害が出るだろうにと不安に思うが、中国政府はさほど心配していないのかもしれない。「世界一のスマホ大国」である中国はニュースの消費速度も世界一。大騒ぎした事件もちょっとたてばすぐに忘れられてしまう。

 日本も昔と比べれば流行り廃りの移り変わりは高速化していると感じるが、中国の方がはるかに早い。今、煽るだけ煽ってもしばらくすれば忘れられてしまう。

 もし、そうならなかったとしても、強引な方向転換だって可能だ。思い出されるのは昨年12月のゼロコロナ政策転換だ。それまで中国人民の命を守るためにはゼロコロナしかないと言っていたのに、一夜にして解除へと方針転換した。

 官製メディアは「われわれがゼロコロナやっている間にウイルスは弱毒化していました。中国の勝利だ」という理屈で説明していた。こじつけにもほどがあるのではとあきれたが、中国の知人友人と話しても誰も怒っていない。というか、気にしていない。この手のこじつけはよくあることで、終わったことをいまさらあれこれ言っても……ということのようだ。

流行歌が見せた政治への不満

 いくら慣れているとはいえ、中国人もころころ理屈が変わってしまう異常さには気がついている。

 今年7月、「羅刹の海市」という曲が話題となった。再生回数70億回ものヒットとなったそうだ。話題になった理由は歌詞に「この国はあべこべなものばかり」という一節が入っていたことが大きい。正しいことが行われず間違ったことがまかりとおる国だという政治風刺という解釈もあれば、オーディション番組でのやらせやいじめが発覚した中国芸能界のスキャンダルを風刺したものという解釈もある。


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