2024年12月22日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年8月29日

 福島原発処理水の海洋放出で中国が揺れている。

 中国政府は強く反発し、日本の水産物の全面禁輸という強硬措置に出た。官製メディアは連日大きく取りあげ、海洋放出は未来に禍根を残すと報じている。

 と、ここまではお上による動きなのだが、不安にかられた中国人民は塩の買い占めを始めるという予想外の混乱へとつながっている。中国ではヨウ素欠乏症対策として、塩にヨウ素が添加されている。2011年の福島原発事故直後に、原発近隣住民に甲状腺ガン予防のための安定ヨウ素剤が配布されたが、その話が中途半端に中国に伝わった結果、「ヨウ素を摂れば放射能が防げる、じゃあ塩を買うか!」という買い占めにつながった。

中国では、福島原発処理水の海洋放出後、塩の買占めが進んでいる(VCG/アフロ)

 10年以上が過ぎた今も、同じデマが広がったというわけだ。加えて、処理水で海が汚染されれば、塩が不足するという不安もあるらしい。

 中国政府としては、処理水がいかに環境を破壊するのかと宣伝しつつも、買い占めなどの混乱を沈静化するという、いわばアクセルとブレーキを同時に踏むことが必要になる。そうした取り組みの一つが、8月25日に官製メディア・新華報業網に掲載された「“塩の買い占め”、まったく必要がない」とのコラムだ。

 「ヨウ素が添加された食塩には放射能被害を防ぐ力はない」という説明は納得なのだが、「中国で消費されている食塩のうち海水塩のシェアはわずか10%だから心配ない」「中国には塩湖がたくさんあり、青海省のチャカ塩湖だけでも全中国人が70年使う量に匹敵する」などと言われると、逆にやっぱり海水塩は危険なのだと疑問がわいてくる。

 官製メディア・中国新聞社傘下のウェブメディア・中新経緯に掲載された記事はもっと謎だ。中国環境科学研究院の張金良(ジャン・ジンリャン)教授は「処理水放出は30年続く。放射性物質の半減期の長さを考えれば、影響はさらに長期にわたる。いくら買いだめしても一生分は無理だ」と沈静化させようとしているのか煽っているのかよくわからないコメントを寄せている。


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