高専教員の危機感を機に
広がった人材育成の輪
財団のあゆみを振り返ろう。発端は、劣化が進む山間地の橋梁を前に、一人の高専教員が抱いた危機感だった。
インフラは社会基盤。基盤が崩れたら、この国は滅びる──。当時、高松高専(現・香川高専)の教授を務めていた太田貞次さんはこの現状を学生たちに伝えるべく、インフラの維持管理を題材にした授業を開始。深刻なインフラ老朽化問題をいち早く察知し、力を入れはじめたのが、高専のインフラメンテナンス教育である。
太田さんの意志は、他高専の土木・建築分野の教員に受け継がれ、学生だけでなく社会人にも門戸が開かれていった。リカレント教育(社会人の学び直し)の新たな拠点づくりを牽引してきたのが、舞鶴高専の玉田和也教授だ。玉田さんは、民間の橋梁メーカーに18年間勤め、全国各地の橋の設計に携わった後、舞鶴高専に着任。「橋梁など大型建造物の専門人材は都市部に集中するが、そうした人材を必要としている橋は地方に多い。相談できる専門家がいない自治体に維持管理を背負わせるのには無理がある。だから高専生に限らず、現役のニーズに応える技術教育を目指してきた」と振り返る。
2014年、玉田さんは同高専内に社会基盤メンテナンス教育センター(iMec〈Infrastructure Maintenance Educational Center〉)を設立。「地元のインフラは地元で守る」をモットーに実践的な教育システムを構築するため、全国の高専生や地方自治体職員、民間技術者などを幅広く受け入れ、現場に密着した教育センターとしてインフラの維持管理技術に特化した人材育成を推進してきた。
16年には、対面で行う講習会と通信教育を組み合わせた研修スタイルを確立。撤去された橋梁の部材を「実物の劣化モデル」として収蔵した「実習フィールド(約500平方メートル)」を整備し、講習に活用。さらに、橋梁の現場を実際に訪れるなど、〝リアルな教材〟を前に感覚を研ぎ澄ませて目視や打音検査、非破壊検査などの点検技術を学ぶことができる。iMecは、橋梁メンテナンスに関する技術資格認定制度も整備しており、地方における官民の土木技術者を対象としたリカレント教育のパイオニアといえる。
こうした活動を礎に、高専によるインフラメンテナンスのリカレント教育はさらなる広がりを見せた。
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