しかし、これは主食用米と酒造好適米が生産数量目標の内数であることを前提とした理由である。そもそも、なぜ酒造好適米は内数なのか。農水省によれば「農家が望んだから」だという。
04年、減反面積の配分から生産数量(目標)の配分へと制度変更が行われた。このとき、内数にすることを農家が選んだ。酒造好適米が合わさればコメの生産数量目標の全体量が増える。その枠内で需要に合わせて主食用米と酒造好適米の生産配分を決めたほうが、メリットがあるからだという。
ただ、これについても生産数量目標というコメの生産量を制限する政策が前提にあるからである。酒造好適米の増産問題は、長年続けてこられたコメの価格維持政策の矛盾が浮かび上がっているといえるのではないか。
長州だけではなく、会津からも疑問の声
実は、09年いち早くこの問題と戦った人たちが会津にいる。先頭に立って問題提起をしたのは、喜多方市議会の渡部信夫議員。「主食に近いパンや、めんの材料になる米粉用米が非主食用として取り扱われているのに、酒造用以外には使えない酒造好適米が主食用の取り扱いを受けるのはどう考えてもおかしくはないでしょうか」。
09年6月渡部議員の議会での提言だ。渡部議員の問題提起により、喜多方市は酒造好適米を生産数量目標の外数とするように特区申請をした。地元産の酒造好適米を使った日本酒を増やすことで、農業や酒造メーカーの産業振興を図るという狙いだ。
特区申請にあたってはその要件を厳格にするべく、酒造メーカーと農家とが契約して酒造好適米を生産する場合に限った。そして「非酒造好適米生産農家」への影響も考慮した。酒造好適米の生産者に対する生産数量目標の配分は、酒造好適米の生産数量を控除して分配するものとした。しかし、3度の特区申請を国が認めることはなかった。
それでも諦めるべきではないという渡部議員の主張に対して、農水省のキャリア官僚出身だった当時の市長は、「国はだめだと言っていますので、私どもとしても再度要請するつもりはありません」と答えている。
農水省もここにきてやっと重い腰を上げようとしている。「酒造メーカーと農家の契約がある新規の酒造好適米の需要増加分に関しては、来年から生産数量目標の枠外にすることを検討している」(農水省穀物課)。3年前に喜多方市が特区申請をした中身と同じであるが、「当時は本当に需要があるか確認できなかった」(同)という。