ハンター起訴の可能性と大統領選挙への影響
米メディアは、バイデン大統領の次男ハンター氏の税金未納と銃不法所持をめぐって、デビッド・ワイス特別検察官が9月29日までに起訴を大陪審に求めていると報じた。ハンター氏は、麻薬依存を申告せずに銃を不法所持していた。
仮にハンター氏が起訴された場合、選挙戦にどのような影響を与えるのだろうか。
言うまでもないが、ハンター氏と合計91の罪で4回起訴されたトランプ前大統領を同等に扱うべきではない。同前大統領の場合、4回の起訴の内2回は連邦レベルである。加えて、20年米大統領選挙結果の認定手続きの妨害は、民主主義に対する挑戦であるからだ。
しかし、バイデン大統領が銃規制強化を推し進める中で、ハンター氏が違法に銃を購入した事実は、マイナス要因であると言わざるを得ない。また、共和党大統領候補は、ハンター氏と中国およびウクライナビジネスの問題を主要な争点の1つにすることは明らかである。
その際、共和党大統領候補はハンター氏と中国ビジネスに関して、国家安全保障問題と絡めて追及する可能性が高い。というのは、ハンター氏は機密文書が発見されたバイデン大統領の自宅を事務所として使用していたからだ。
エコノミストとユーゴヴの共同世論調査(23年8月19~22日実施)では、「ハンター・バイデンは父親の地位を利用して個人的な利益を得たと思うか」という質問に対して、米国民の72%が「思う」と回答した。党派別にみると、民主党支持者の53%、無党派層の72%、共和党支持者の92%が「思う」と答えた。ハンター氏は、民主党支持者からも支持を得ていないのだ。
バイデンはハンターに恩赦を出すのか?
仮にハンター氏が有罪評決を受けたたら、バイデン大統領は恩赦を出すだろうか。それが大統領選挙にどのような影響を与えるのだろうか。
もしバイデン大統領がハンター氏に恩赦を出せば、共和党大統領候補は身内に恩赦を与えたと批判することは明白だ。
一方、バイデン氏がハンター氏に恩赦を与えなかったら、世論はどう反応するだろうか。
トランプ前大統領は、メキシコ国境の壁建設の名目で、民間から資金を集めて流用し、有罪評決を受けたホワイトハウスのスティーブ・バノン元首席戦略官に恩赦を与えた。さらに、銃器所持で有罪になったラッパーのリル・ウェイン氏やコダック・ブラック氏にも恩赦を出した。
トランプ前大統領は自分に対する忠誠心を高めるための「道具」として、恩赦を利用したフシがある。バイデン大統領は、トランプ前大統領を意識して、恩赦に対する考え方の相違を明確にするために、ハンター氏に恩赦を出さないかもしれない。
そうなれば、世論がバイデン大統領を息子に対して愛情のない父親と捉えるのか、逆に愛情があるからこそ恩赦を与えなかったと解釈するのか、あるいは「法と感情」を切り離すことができるリーダーとして見るのか――バイデン大統領をめぐる評価が分かれる公算が高い。
ウクライナをめぐる「支援疲れ」から「支援失敗」へのリスク
バイデン大統領のウクライナ政策の支持率は低下している。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの全国世論調査によれば、42%が「支持」、52%が「不支持」と答え、「支持」が「不支持」を10ポイント下回った。4月に行った同調査の結果と比較すると、「支持」が4ポイント低下し、「不支持」が3ポイント上昇した。
また、エコノミストとユーゴヴの共同世論調査(23年8月19~22日実施)では、ウクライナに対する軍事支援に関して、全体で27%が「増加」、29%が「削減」、27%が「維持」であった。たが、20年米大統領選挙でトランプ前大統領に投票した有権者は、13%が「増加」、52%が「削減」、19%が「維持」と答え、全体と比較すると、「削減」が23ポイントも高い。
さらに、同調査(同月26~29日実施)によると、ボロディミル・ゼレンスキー大統領の好感度に関して、前回の選挙でトランプ氏に投票した有権者の35%が「好感が持てる」、41%が「好感が持てない」と回答し、「好感」が「非好感」を6ポイント下回った。無党派層は35%が「好感が持てる」、26%が「好感が持てない」と答えたが、全体と比べると「好感」が9ポイント低かった。
これらの調査結果は、
米国民の意識が、ウクライナをめぐって「支援疲れ」から「支援失敗」へと変化するリスクを含んでいるということである。共和党大統領候補は、有権者に対してバイデン大統領の「ウクライナ支援失敗」を印象づける発言を繰り返すだろう。
これに対して、バイデン大統領は、選挙の日程を考えれば、来年秋の民主・共和党大統領候補によるテレビ討論会の前までに、ウクライナ和平交渉を行い、一定の成果を出したいこところである。