ロシアにとっては脅威でもないウクライナに突然国際法を無視して侵略したのはロシアであり、暴力を振るったのはロシアだ。自分の国に色々と問題があることは認めているようだが、それならどうして自力で平和的に解決しないのか?
それに国民の生の声を採取し、それに基づいて幾ばくかでも説得力がある議論は提起されていない。例えばロシア人の若者などの声は取り上げられていない。
反戦的な声は直ぐ刑法に触れるので人びとは黙っているのだ。それにウクライナ戦開戦後既に数十万人のロシア人がロシアを離れた。そういう現実には触れないで、フランスでの年金ストライキや米国の議会襲撃等の暴力沙汰が国内の政変を生んでいないという論法は牽強付会で全く受け入れられない。フランスも米国も民主主義だから事態は一定の範囲内に収まっているだけで、そうでないロシアとは訳が違う。
やはり気になる中国の関与
ロシアが崩壊する可能性はどの程度現実的であるのかはもちろん各人の推測に依存する。それにロシアの現体制が崩壊したらあの国は民主化するとは限らない。いかなる意味でもロシアの将来を楽観視することは禁物だ。
重要な点は、混乱するロシアは中国の属国になる危険があるとロシアの識者自身が指摘していることだ(’Don’t Fear Putin’s Demise Victory for Ukraine, Democracy for Russia’ Garry Kasparov and Mikhail Khodorkovsky, Foreign Affairs, January 20, 2023)。そうなれば中国がユーラシアに覇を唱えることになる。ここがロシア問題のキモだ。
それは地政学上の世界的な構造変化だ。世界的な安全保障上の現状をぶち壊す危険があるなら、それなりの対応が必要である。
西側の政策当事者はこの構造変化があり得ると想定し、対応策を検討しておくべきだ。もしもロシアの民主化が可能になればこの脈絡で有用な要素になるかもしれない。しかし、ロシアの民主化が実現しそうでないならば猶更、西側は徹底した作戦会議を開いて世界政治の構造変化に対応する方途を議論するべきだ。