2024年5月20日(月)

プーチンのロシア

2023年9月15日

 特に悪名高い「プリゴジンの反乱」が起こり、その前から1年以上にわたって現地の状況を注意深く観察してきたが、ロシアに危機が差し迫っている兆候はまだ見られない。それどころか、ロシアの現状は、経済、社会力学、人口動態、そして特に軍事的な領域など、さまざまな領域で観察者の予想を上回っている。

 ロシアの崩壊が間近に迫っているというシナリオは、ロシアの脆弱性、広大さ、決定的な不均衡のために国内が崩壊しやすいという根強い考え方に由来している。現在進行中の危機は、ロシアにとって実質的なストレス・テストであるが、健全な意思決定、社会的回復力の発揮、資源の効率的活用、経済モデルの適応、政治システムの維持、情報戦略の管理、外交政策の課題への対処などの能力を証明している。

フランスや米国の事例も引き合いに

 ロシアは特に深刻な緊張時に、市場経済としてのロシアの驚くべき適応力を明らかにした。西側諸国への輸出能力が大幅に失われる事態に直面しても、ロシアは予想外の敏捷性を発揮し、金融部門と経済全体で見事な回復力を示した。一部の欧米の出版物で喧伝されているような崩壊という概念は、欧米諸国がそのような空想的なシナリオの実現を目撃したいという願望から生じていることは間違いない。

 比較のために、ストライキや暴動が絶えないフランスの最近の出来事を考えてみよう。フランスが崩壊や欧州連合(EU)離脱の危機に瀕しているというのは根拠のない話だ。

 あるいは、米国のトランプ前大統領が大統領選の結果を否定した後に勃発した国会議事堂での暴動を考えてみよう。この事例は米国の国内政治に大きな影響を与えたが、同国の地政学的スタンスにはほとんど影響を与えなかった。

 ロシアを含め、どの国でも繰り広げられる出来事は、差し迫った崩壊ではなく、政治発展の自然で周期的な側面として理解するのが最善である。このような状況はしばしば、国家が継続的な成長と進化の一環として乗り越えなければならない課題や複雑さを提示する。

 ピョートル大帝時代のストレリツィ蜂起や、その後の数々のクーデターの失敗といった歴史的な事例は、ロシアが歴史的に国内の課題や反乱にさらされてきたことを強調している。この視点は、現在の状況が孤立した出来事ではなく、むしろロシアのより広い歴史的文脈の一部であり、ロシアの歴史を通じて繰り返される国内の複雑性と社会政治的混乱のパターンを描いていることを強調している。

 私(スシェンツォフ氏)の分析によれば、ロシア指導部は「ワグナー状況」を効果的に管理し、前線での多大な損失と悪影響を軽減しながら、巧みにパワーバランスを維持した。この成功裏の処理によって、軍隊間の戦略的団結がもたらされ、将来、他の地域でのワグナー作戦の可能性が開かれることになった。

受け入れ難いロシアの〝言い分〟

 要するにこの論考はロシア国内で不安材料があることは認めつつもそれは、どの国においても起きる歴史的文脈の一部だと論じている。ロシアにはロシアの困難があり、それをロシアはロシアなりに懸命に解決しようとしていると強調しているようだ。

 それからロシア国内ではそれぞれの側面で成長し、事態が進展しているとも論じている。これが彼らの言いたいところなのだろう。

 しかし、「このロシアの努力の側面をよく見ないで崩壊論を前面に押し出そうとする西側は問題の平和的解決に関心が無いからだ」という論調は全く受け入れられない。なぜなら、この戦争を始めたのはロシアだからだ。


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