2024年5月11日(土)

Wedge REPORT

2009年4月22日

 その上、太陽電池は、半導体や薄型テレビに比べて工程が10分の1と短く、「ターンキー方式」という方法が取り入れられています。

 「ターンキー」とは、海外のプラント建設でよく使われる用語ですが、下請けの構築側がシステムを完全に仕上げて、あとは鍵を回せば機械が動くという状態で、ユーザーに納入するという意味です。なんの技術もない新興メーカーでも、製造装置を買ってくれさえすれば、すぐにセルを生産できるようになる時代に入ってきているのです。

 特に中国では、欧州の旺盛な政策需要を背景に、数百社に及ぶ関連企業が登場しました。「発電できればなんでも」という具合にこうした中小新興企業の製品が市場に流れこみました。

 ドイツを上回る市場に成長したスペインでは、“太陽電池バブル”ともいうべき状態がひき起こされています。スペインでは、25年間市中電力の3倍で買い取るという大胆な制度が打ち出されたため、投資先を探していたファンドマネーと、中国をはじめとする新興メーカーが一気に流入し、それまで数百メガワット(MW)に過ぎなかった導入量が08年には2600MW(2.6GW)と、世界一の規模まで膨らみました。

 急激な伸びは、一般電力料金のアップにもつながるため、スペイン政府は、09年は導入に制限を設けて500MWまでとしました。それによって中小新興勢力は、大量の在庫を抱えることになり、ダンピング合戦で価格が急落、全世界に影響が及んでいます。これが「スペイン・ショック」と呼ばれるバブル崩壊です。

 これらの状況からは、すでに太陽電池が技術的に成熟期に入り、価格競争と淘汰の時代が訪れている、とみることもできるわけです。これが日本勢復興に対する悲観論の最大の根拠になっています。

 他にも、「日本が多くの国民負担を伴って市場を拡大しても、世界に占める割合は小さい。各国は自国企業を優先するだろうから、日本勢躍進の可能性は大きくない」、「将来にわたって太陽電池は一般の発電コストよりかなり割高なままであり、補助金政策頼み。各国が足並みを揃えて長期間支援しなければ市場は拡大しないが、その可能性は小さい」、「国内に限ってみても、余剰電力を買わされる電力会社の抵抗、パネルを設置しにくい集合住宅の多さなど、市場拡大のハードルは高い」など、多くの悲観論があります。

 しかし、日本企業はまだまだ技術力で凌駕していますし、将来的に火力発電に勝るコスト競争力を求めようとすれば、太陽電池技術の発展余地は大きく残されています。周辺産業への波及も大きい技術ですから、日本の将来の基幹産業として育つ可能性は十分にあります。もちろん、上記のような悲観論を乗り越えていくことは決して容易ではありませんから、技術開発や設備投資、ビジネスモデル変革に対する継続的な企業努力と、国の産業政策が長期的に担保される必要があります。

 次回、「太陽電池は日本を救うか(その2)~日本の強みとなすべきこと」は、4月27日(月)公開予定です。

 詳しくは「WEDGE」5月号特集記事をご覧ください。

◆「WEDGE」2009年5月号より

 

 

 
 

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