社会労働党は第2党といっても121議席で、連合を組む急進左派のSumar党は31議席に過ぎず、地域政党から24票の支持を得る必要がある。独立派政党は右派連合とは厳しく対立する関係であったが、社会労働党とは部分的に協力関係があった党もあり、サンチェスは、独立派と何らかの取引を行うことで過半数の確保の可能性はあるとみているところであろう。
しかし、カタルーニャの独立派政党である右派のJUNTS(7議席)も左派のERC(7議席)も、今後の独立へ向けての具体的な手掛かりとなるような要求を出しているようであり、特に、JUNTSは国家反逆罪として訴追されベルギーに亡命中のプッチダモン元カタルーニャ首相の恩赦を要求している。恩赦を約束する場合には国民の反発を招く恐れがあり、また、憲法裁判所で違憲とされる可能性もあるが、サンチェスが踏み切る可能性はあろう。
むしろより難しいのは、両党が要求しているカタルーニャの独立の是非に関する新たな住民投票を約束することであり、これは独立を認める方向への具体的な一歩となるもので、これまでサンチェス自身が拒否していたことでもある。
再び総選挙となる可能性も
今後、サンチェスと独立派地域政党の間で具体的な交渉が行われることになり、何らかの形での自治権の更なる拡大といった象徴的な譲歩で妥協できれば良いが、独立派政党がそのようなことで妥協するかは疑問である。上記の記事は、サンチェスが譲歩するかもしれないと示唆しているが、サンチェスが、自らの政権維持のために住民投票を認め、国家の統合や領土の保全といった基本的価値を危うくするとも思えない。
今後水面下の交渉が続くであろうが、最初の信任投票(9月27日)から2カ月以内に首相が決まらない場合、上下両院が解散され総選挙が行われることになるので、11月末には、サンチェスが首相に選ばれるか、総選挙となるかが明らかとなる。新首相は決まらず総選挙ということになる可能性が高いように思えるが、仮に、予想外に何らかの妥協が成立しても、野党側や世論による厳しい批判の的となり、安定した政権運営とはならず政局の混迷は続くであろう。
国民の間には、カタルーニャの独立問題をめぐる国政の混乱にうんざりしているという兆候もみられる。総選挙となればスペイン国民は、国家の安定を優先し、中道右派に対し明確な過半数を与える選択を示すことになるのではないかと思われる。
本来は、スペインは、ウクライナ問題などで困難な国際情勢の中で今年は欧州連合(EU)議長国としてイニシアティブを発揮し、国際政治・経済上重要な役割を果たすべき立場にある。カタルーニャの問題でスペイン政府がその役割を十分に果たせないとすれば残念なことである。