また、ホームレスの増大も、同様の印象を強めている。米国では公的扶助政策が充実しておらず、日本でいうところの生活保護のようなものが合衆国憲法から導かれる当然の権利とは位置付けられていない。他方、急速に流入した不法移民にはシェルターや食事が提供されていることが、不公平感を生み出している。
コロナ禍では貧困者支援のための補助金が連邦政府から提供されていたが、それも今年5月に打ち切られた。現状では米国の経済状況は良好で失業率が歴史的に低く(例えばサンフランシスコ地区の今年9月の失業率は3.0%である)、人手不足もあって低技能者の時給も上昇しているとはいえ、インフレもあって生活苦にあえぐ人は多い。
ホームレスが犯罪に着手しているわけではないにもかかわらず、彼らの存在を街の秩序の乱れと関連付ける人は存在する。どのような人であっても困窮状態に置かれれば犯罪に着手することを正当化しやすい心理状態に置かれる傾向があることから、ホームレスの増大と治安悪化を結びつけて考える人が増えているのである。
なお、最近集団強盗事件が発生していることを、その妥当性はともかくとして、これらの問題と結び付けて議論する人がいる。集団強盗事件の背後に犯罪組織が存在しており、それが不法移民によって主導されているとか、ホームレスが動員されていると指摘する人がいるのである。
集団強盗の背景に犯罪組織が存在するかは事例ごとに確認する必要があるが、例えば一時期に強盗犯を多く集めるためには何らかの組織的な動きが必要なのではないかと疑われることや、盗んだ高級品を売ると足がつきやすいので違法に入手した物品を販売するための闇の販売網が存在すると想定されることなどが、犯罪組織との関わりが噂される背景にある。日用品の場合はネット上で販売しても足がつきにくいが、その上がりを背後で取りまとめる組織がある可能性もある。それと不法移民やホームレスに関わりがあるという議論に根拠がない場合でも、そのようなことがほのめかされるのである。
ここで指摘した諸問題は、リベラル派と民主党が優位する都市部で顕在化しているため、保守派と共和党がリベラル派と民主党を批判しやすい状況が生まれているのである。
警察予算剥奪論への批判
都市部での犯罪増大をめぐり、民主党の警察に対する政策が大きな原因となったのではないかとの批判も強くなっている。
20年5月にミネアポリス近郊で黒人男性のジョージ・フロイドが警察官による不適切な拘束を受けて死亡した事件を受けて、全米でブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命も大切だ)運動が再び活発化した。その中で一部の人々が警察予算剥奪論(defund the police)を展開した。
このスローガンは警察による暴力や人種差別主義に対する抗議の意味を込めて用いられたものであり、多くの場合、警察に対して向けられている予算の一部を、心の病やホームレス対策など別の社会サービスに振り向けることを検討するべきという比較的穏健な主張であったが、その強烈な語感が保守派の反発を招いた。