トルコでは今、「全国の病院・薬局に生体認証システムを設置する」国家プロジェクトが進められている。生体認証とは、手の静脈や指紋によって本人を認証することで、パスワードなどと違い、「他人になりすます」ことは困難でセキュリティ度が高い。病院や薬局に生体認証システムを導入することによって、本人確認を徹底するというのが、トルコ政府の狙いだ。
このほど、このトルコのプロジェクトに認証センサーを供給する5社が決定した。このなかに、生体認証技術で世界的地位を築いている富士通、日立製作所、NECに加えて、日本からもう1社、聞き慣れぬ会社が選ばれた。2010年、ソニーからスピンアウトして設立されたモフィリア(東京都品川区)だ。
ソニーは、00年前後から独自の指静脈認証技術の開発に着手した。モフィリアの指静脈認証技術は、構造がシンプルで、それが小型という特徴につながっている。静脈が集中している手の指の第1、第2関節を認証装置に置く。そのとき近赤外LEDを照射し、そこで浮かび上がった静脈をCMOSセンサーで撮影するという仕組みだ。
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モフィリアの天貝佐登史社長は07年、ソニーの静脈認証事業の開発室長に就任。当時の中鉢良治社長から「面白い技術なので事業化を検討してほしい」と後押しを受けた。09年にはコンシューマー向けにクレジットカード程度の大きさの認証端末の販売を開始。パソコンのUSBに認証端末を接続して利用するもので、スピンアウト後も主力商品の一つとして販売数を伸ばしている。
事業化には成功したものの、国内の銀行等で使用される静脈認証は富士通、日立に独占されていた。しかし、「外国はブルーオーシャン(未開拓)」と、国内のATMメーカーと共同で海外の市場を開拓した。海外での事業を広げていくなかで「ソニーの傘下にいるよりも、ニュートラルな立場で、世界の地場で強い事業パートナーやインテグレーターと組みながら事業を拡大する」という道を選ぶことにした。