商用衛星が戦局を左右したウクライナ戦争
2022年2月に勃発したロシア・ウクライナ戦争の際にも、軍事作戦における宇宙空間の重要性が、改めて明らかとなった。
それは、アメリカのマクサー・テクノロジーズ社に代表される民間の商用衛星画像、電波源から判別される電子信号情報や合成開口レーダー(SAR)情報、さらには、遠く離れた土地や戦場付近においてスマートフォンなどで撮影された画像データ、これらが包括的に一元処理されることを通じて、インテリジェンスに関するビッグデータの重要な一部となり、ロシアの戦場における戦力状況をリアルタイムに可視化させることに寄与したのである。
また、スターリンクのような民間衛星通信インターネットサービスは、サイバー攻撃により既存の通信環境を活用し得ないような場合でも、ウクライナ軍の抗堪性(レジリエンス)を高め、戦力的に劣勢の中において、継戦能力を確保する上で大きな貢献を果たした。
それらは、いずれも、技術の進化によってもたらされたものであり、世界は、高解像度の汎用技術や衛星コンステレーション技術などの高度化する商用宇宙能力によって、戦局の帰趨が左右される現実を目の当たりにすることになった。
また、ウクライナ軍は、宇宙システムを利用した砲撃支援システム「GIS Arta」を戦場に投入し、GPSや小型ドローンからのデジタルデータ情報の処理および伝達速度を早めることによって、ロシア軍に対する反撃の時間を大幅に縮めることに成功した。
今後、宇宙利用の戦闘管理システムが統合打撃力の中核を占めることが予想される中で、宇宙に係る先進的な技術を実際の作戦運用に迅速かつシームレスに取り込んでいくことができるか否かは、軍の作戦遂行に死活的な意味を有することになろう。
カギ握る「デュアルユース」
そもそも、現在の高度な軍事技術は、技術の指数関数的な進化の流れの中で、民生技術から派生(スピン・オン)するものが急増しており、その境目を区別することに意味がなくなってきている。
事実、中国は、その軍民融合戦略の中で、近年の技術革新の急速な進展による軍事技術と民生技術のボーダーレス化を背景として、軍事技術にも応用し得る先進的な民生技術、いわゆる軍民両用(デュアルユース)技術に対して軍事目的での多額の投資を行い、その早期の実装化を急いでいる。
西側諸国は、これらの投資が、他の競合国の技術的および運用上の優位性を損ない、自由で開かれた国際秩序を不安定なものにしかねないことを懸念しているが、今後、新興・破壊的技術(EDTs)の急速な発展とさらなる進化によって、ハイブリッド戦争を含む各種戦闘の中で、デュアルユース技術を実装化した民間アセットの重要性は一層高まるであろう。
宇宙空間が軍事的な領域に変化し、その中で、民間部門の果たす安全保障面での役割がより大きくなる流れにおいて、宇宙空間におけるデュアルユース技術の積極的な活用は、敵に対する優越性を獲得するための鍵となる。
アメリカの商用衛星が軍事目標になる可能性に言及したロシア
ウクライナの戦場では、民間の宇宙関連のビジネス主体が大きな役割を果たすことになったが、その中でも、リモートセンシング衛星の情報が、その他の非戦闘情報と有機的に結合し、俯瞰的に戦域全体を映し出すことを通じて、ウクライナ関係者に、戦いの推移をリアルタイムに共有し得た事実は注目に値する。
それは、世界に、商用の地球観測衛星からの情報が、地図や画像の目視では判別しかねる地上や海上の状況を把握し、危機事態の推移を予測するにあたって大きな役割を果たし得ることを再認識させた。
特に、光学衛星による高解像度の三次元情報を活用して、時間の経過に伴う変化分を加えつつ、地上部隊や装備品などの移動や活動を正確かつ詳細に把握することは、時間的かつ空間的にシームレスな戦いを遂行する上で不可欠となっている。