また、中露の核弾頭搭載可能な極超音速兵器やレーダーの見通し外から飛来する新たな経空脅威に対して、アメリカは、多数展開低軌道(PLEO)人工衛星群(衛星コンステレーション)による宇宙センサーシステムの開発や弾道ミサイル発射直後における破壊・迎撃用の指向性エネルギー兵器開発の検討を急いでいる。
それは、将来的に、宇宙空間において、超高速、大容量、多接続、低遅延を特徴とする情報通信技術(ICT)の進化によって、あらゆるものがインターネットにつながる宇宙IoTの中で、地上の警戒監視機能を支援する能力が宇宙システムに付加されることを前提としている。
そして、軍事技術の急速な進展を背景として現在の戦闘様相が陸・海・空のみならず、宇宙・サイバー・電磁波という新たな作戦領域を組み合わせたものになるという見積もりを背景として、統合防空ミサイル防衛(IAMD)における宇宙空間の価値がより高まる。領域統合的な対応が、従来の防衛の範疇を超えて、脅威の多様化と複雑化に応じて一層進化してゆくことが求められるゆえんである。
しかしここで、世界は、技術の急速な進化と新領域をめぐる環境変化に対して、既存の条約や慣習法が十分対処できているのかという疑問に直面する。現在、米露間の軍備管理・軍縮に向けての動きが停滞し、核戦力増強を図る中国が新たな核軍縮交渉の協議への参加を拒否する状況の中で、新たな脅威の多様化や複雑化に対する国際的な対応が十分とは言えない。
1967年、宇宙空間における軍事利用を禁止または制限する宇宙条約の発効以来、軍事的な挑戦が行われない「聖域」とみなされてきたものの、宇宙への軍事・民生の依存が強まり、宇宙が作戦/戦闘領域化へと変化する中で、状況は大きく変わりつつある。
そして、近年、徐々にではあるが、国際社会では宇宙活動に関する国際的なルール作りへの努力が始まり、安全保障面でも、新たな国際的取り組みに向けた動きが活発化している。
このような国際的な取り組みが、具体的な国際規範の成立として結実し、宇宙空間における脅威の抑止と対処を実効的かつ平和裏に行える環境が整備されることが期待される。
宇宙衛星は「第5条」の対象になり得るのか?
自衛権は権利なので要件を満たせば行使できる。しかし、安全保障条約では自衛権の行使を相互に義務化しているため、どのような場合に義務となるのかが問題となる。
2023年1月、日米安全保障協議委員会(2+2)において、宇宙に係る攻撃が同盟の安全に対する明確な挑戦であるとして、一定の場合には、当該攻撃が、日米安全保障条約第5条の発動につながることが確認された。すでに、2019年4月の2+2において、サイバー攻撃が日米安保条約第5条の武力攻撃に該当するとしていることから、今回、新たに宇宙領域における攻撃事態が対象範疇となったことになる。
第5条とは、アメリカの対日防衛義務を定めた条項であり、日米安保条約の中核的な条文とされる。「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対して、「共通の危険に対処するように行動する」と規定されており、今回の合意によって、宇宙空間における日米両国による防衛の決意が明らかにされた。
しかし、実際の5条発動に際しては、我が国が施政を行い得る状況にあるとされる領域において、いずれか一方に対する武力攻撃が生じることが必要であるとみられ、本来、領域の概念が想定されない宇宙空間の位置付けをめぐって、現実の運用においては難しい判断が求められることが懸念される。そもそも、施政下の領域とは、日本が領有し、我が国の法律が適用できる地域であって、従来の解釈では、宇宙空間に適用されるとは考えられていなかった。
今回、日本の防衛のために、宇宙アセットが重要な位置付けとなったことに加えて、宇宙の重要性や環境変化に伴って、その領域の解釈が拡大されたものと理解することが妥当であろうが、依然として明確な回答はみられない。