北大西洋条約機構(NATO)においても、2019年6月の国防相会合において独自の宇宙政策が採択され、同年12月のロンドン首脳会合において、宇宙が、陸、海、空、サイバー空間と並んで5番目の作戦領域として位置付けられた。
さらに、2021年のブリュッセル首脳会合では、宇宙空間への攻撃が、NATOの集団防衛条項(第5条)を自動的に発動する可能性を明らかにした。その一方で、そのような攻撃がいつ第5条の発動につながるかについての決定は、状況に応じ、北大西洋理事会(NAC)の決定によって行われるとして、明確な発動基準などは示されていない。
それは、あえて発動の閾値を示さないことによって、相手を抑止する戦術と位置付けられ、ロシアによるサイバー攻撃、宇宙空間における妨害活動、海底ケーブルの切断などに対する牽制的な予防措置と考えられる。
いずれにせよ、第5条適用が、宇宙アセットへの直接攻撃によって実現するのか、それとも、宇宙アセット攻撃の結果として、重要インフラなどの停止が発生して、それを契機として、第5条が発動されるのか、論点を十分整理する必要がある。
その一方でハイブリッド攻撃が、国民生活の基盤となる重要インフラへの重大な被害を生じかねない中で、これらの議論が、攻撃者の行動を抑止する方策として、一定の効果は期待できるであろう。
宇宙を持続可能で安定した空間に
現在、仮想空間と現実空間の接続性が高まり、その境界がより重複し、不透明となる中で、作戦領域を統合領域として捉え、領域間をシームレスに戦うことが求められる。そのため、宇宙やサイバー空間における攻撃がもたらす重大な被害をトリガーとして、集団的自衛権を発動することは、新領域作戦の特性上も妥当であろう。
しかし、それらの攻撃の帰属(アトリビューション)の確定は難しく、それを立証し、攻撃の正当性を主張するには、いまだ十分な環境が準備されているとは言えない。それは、今後、同盟内、または有志国の間で、十分な協議を行い、想定事態を整理し、万全な対応を準備することによって、初めて現実のものとなるはずである。
本来、公共財として尊重されるべき宇宙空間が、作戦/戦闘領域に変化していることは、国際的にも憂慮すべき事態であり、一刻も早く、それらの空間から増大しつつある脅威を排除し、本来の安定した持続可能な空間へと回復させることが、国際社会の重大な責任となることは間違いない。
そのためには、新領域の安全保障の複雑さと多様性に鑑みて、専門の分野を超えた様々な関係者の知恵と経験が不可欠であり、さらに、それらを総合的に取りまとめ得る、国際的な総合調整能力と幅広い見識が求められるはずである。