2024年5月18日(土)

デジタル時代の経営・安全保障学

2024年1月22日

 1977年のジュネーヴ諸条約第一追加議定書第52条第2項は、慣習法化し、さらに洋上と空中の目標についても適用される。合法的な攻撃目標となる「軍事目標(military objectives)」は、「物については、その性質、位置、用途又は使用が軍事活動に効果的に資する物であってその全面的又は部分的な破壊、奪取又は無効化がその時点における状況において明確な軍事的利益をもたらすものに限る」ことを明確にしている。

 他方で、今回のロシア・ウクライナ戦争では、民生用で使用されるアセットが、戦場下における軍事目標となる可能性が指摘されている。

 それは、ウクライナ軍が戦場への進撃を続ける中、指揮統制を維持できないことへのロシア側の不満が高まっていることを背景として、2022年10月26日、国連総会の会合中に、ロシア外務省報道官のコンスタンチン・ボロンツォフが行った発言に表れている。

 そこで、彼は、「宇宙技術の無害な利用を超え、最近のウクライナ情勢の中で明らかになった極めて危険な傾向を特に強調したい」として「アメリカとその同盟国による軍事目的での宇宙空間における商業・インフラ要素を含む民間利用」を対象として、衛星利用は戦争への「間接的参加を構成する」ことから「準民間インフラが正当な報復対象となる可能性がある」と述べた。

 それは、軍事利用される民間宇宙アセットが、一時的であっても、敵からは軍事目標とみなされる可能性が高いことを示すことになり、国家として、これらの民間の宇宙能力をいかに敵の攻撃や妨害から守るのかという新たな問題が浮上してくる。

 このロシア側の発言に対して、アメリカ・ホワイトハウスのカリーヌ・ジャンピエール報道官は、詳細については触れなかったが、アメリカの(宇宙アセットを含む)インフラに対するいかなる攻撃にも対応すると述べ、国家として宇宙民間インフラを防護する断固とした姿勢を見せた。

 今後、日本も、有事における民間アセットの信頼性を維持し、機能発揮を保証するという観点から、民間アセットへの敵の攻撃からの防護についても明確な姿勢を示し、その実施要領や被害を受けた際の損害補償などに関する検討を急ぐべきではないだろうか。

 さらに、それらの検討と併せて、国レベルだけでなく、多国間においても、その民間アセットの敵の攻撃からの具体的な防護要領や被害復旧などについて協調的な立場を取ることは、今後、有事における民間アセットの信頼性を維持し、宇宙システムの機能発揮を保証するためにも不可避の課題となるであろう。

技術や環境の激変に追いつけない国際規範

 2022年2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始した当日、民間衛星通信会社のビアサット(Viasat)社のKA-SATブロードバンド衛星がサイバー攻撃の対象となり、軍民の通信や電力が被害や影響を受けることになった。

 さらに、その攻撃事態は、インターネット接続障害やドイツの風力発電へのリモートアクセス切断など、ヨーロッパ全域に重大な影響を広げたのである。

 従来、宇宙アセットやシステムへの攻撃は、ASAT攻撃、ジャミング、ハッキングなど宇宙空間の人工衛星に対する直接的な攻撃が主体とみられてきたが、IoTにおける情報通信技術の急速な進化に伴って宇宙システム全体の重要性が高まる中で、その攻撃対象は、打ち上げ、追跡管制、衛星運用などの機能を有する地上システムにも及び、サイバー空間を通じた攻撃に対する安全確保がより一層大きな課題となりつつある。

 それは、人工衛星、地上施設、コミュニケーションラインを個別に防護するのでは十分でなく、宇宙とサイバーという空間領域を統合的に捉え、その一体的な防衛手段を早急に構築する必要性が生じていることを意味する。


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