軍事・安全保障の観点から、宇宙空間の重要性が急速に高まりつつある。
特に、観測衛星からの情報は、地図や画像の目視では判別しかねる地上の状況を把握し、人や車両の活動の特異状況の判断、また危機の事前段階の予測などに応用可能であり、それらデータの作戦運用における利活用は不可欠となっている。
それは、軍事・安全保障上、リモートセンシング(遠隔探査)衛星の情報が、その他の非戦闘情報と総合的に組み合わされ、俯瞰的に戦域全体を映し出すことを通じて、戦場全体を可視化させる役割を果たすことを意味する。
さらに、光学衛星による高解像度の三次元情報を多用することは、地球上のあらゆる事象や活動を宇宙から監視、制御する流れの中で、時間の経過に伴う変化を掌握し、地上部隊や装備品などの移動や活動の細部を正確かつ詳細に把握することを可能ならしめた。
時代の変化と技術の進化を背景に、陸海空という既存の戦闘領域だけでなく、宇宙空間やサイバー空間という新領域において優越性を獲得し得るか否かが、戦いの雌雄を決する時代となったのである。
「3C(=競合・混雑・敵対)」化する宇宙
そもそも宇宙には、固有の領域という概念はなく、国際公共財として、誰もが自由にアクセスして、活用することができる人類共有の領域と考えられてきた。
確かに、これまで科学技術のフロンティアとして平和的な利活用が図られてきた宇宙空間であるが、近年、経済成長の推進基盤としての利用が急速に進み、新たな資源の獲得を企図する国家や企業の参入によって、宇宙空間は、新たに、競合し(Competitive)、混雑し(Congested)、敵対する(Contested)という3つの「C」の特徴を有する領域へと変わりつつある。
また、民生活動の宇宙依存が高まるのに併せて、軍事作戦における警戒監視や情報通信の分野で宇宙アセットの重要性が高まる結果、宇宙空間を作戦/戦闘領域として位置付ける傾向が強まっている。
「聖域」ではなくなる宇宙
宇宙空間の軍事利用は、米ソ間の宇宙開発競争の口火を切ったスプートニク・ショック(1957年10月)前後から始まったが、不用意な宇宙アセットへの攻撃がお互いの偵察監視や衛星通信に大きな影響を与えることから、21世紀初頭まで、軍事的な挑戦を控える「聖域」とみなされてきた。
しかし、中国が、2007年1月に強行した対衛星兵器(ASAT)を用いた人工衛星の破壊実験は、多数の宇宙ゴミ(デブリ)を発生させることとなり、宇宙空間の安定的利用を求める西側諸国に対して、宇宙システムの脆弱性と共に、その対策の必要性を再認識させることになった。
それは、指揮通信、画像情報、ナビゲーション、早期警戒の面で宇宙への軍事的な依存が加速する中で、国家主体による宇宙への軍事的アプローチを積極化させることも意味した。
そして、2018年、アメリカは初の「国家宇宙戦略」の中で、宇宙空間を軍事作戦の対象となる戦闘領域として位置付けたのである。