米中西部アイオワ州での共和党党員集会で圧勝したドナルド・トランプ前大統領は、同時並行して行われる選挙と裁判の双方を戦っていかなければならない。トランプ前大統領はどのようにして、選挙と裁判を乗り越えようとしているのか。その秘策は何か。
裁判の「タイミング」と「有罪評決」
トランプ前大統領は4件の刑事訴追で、91件の罪に問われている。まず、2020年米大統領選挙の結果認定の手続きを妨害した罪などの初公判が、3月4日に予定されている。次に、元ポルノ女優への口止め料を弁護士料として帳簿を改ざんした事件の初公判が、同月25日になっている。
また、国家安全保障に関わる機密文書持ち出しに関する初公判は、5月20日に設定されている。さらに、南部ジョージア州で共謀して2020年米大統領選挙の結果を覆そうとした初公判は、8月5日である。
これに対して、トランプ前大統領と弁護団は、裁判の開始を遅らせる戦略をとっている。大統領在任中の行動について、大統領には刑事責任を「免責」される特権があると裁判所に訴えているのだ。
裁判の先送りを求める背景として、11月5日の投開票日前に有罪評決が出た場合、トランプ前大統領と弁護団には、選挙結果に不利に働くという懸念があるのは明らかだ。
前述の通り、「もしトランプ前大統領が有罪評決を受けても、大統領に適任か」という質問に対して、約6割が適任とする一方で、約3割が有罪評決が下った場合、トランプ前大統領は大統領として不適任とみている。仮に本選挙が接戦になれば、約3割は無視できない数字である。
トランプ前大統領と弁護団の意図通りに行かず、トランプ裁判が予定通り3月4日ないし投開票日前に開かれると、裁判がトランプとバイデンのどちらに有利に働くのかがポイントになる。トランプ裁判開始の「タイミング」と「有罪評決」は、2024年米大統領選挙結果に多大な影響を及ぼす要因になりそうだ。
法廷が選挙キャンペーンの「舞台」に
「タイミング」と「有罪評決」に加えて、4件の裁判の中で、南部ジョージア州の裁判は、テレビやインターネットを通じて全米に生中継される可能性がある。
ジェリー・コノリー下院議員(南部バージニア州)を含めた民主党議員は、ジョージア州に加えて、選挙結果の妨害と機密文書持ち出しに関する2つの連邦レベルの裁判も、全米に生中継されるべきであると強く主張し、選挙区内で署名運動を起こしている。それが、選挙結果において、民主党にプラスに働くと読んでいるからだ。
過去に、アメリカンフットボールの元スター選手O・J・シンプソンが元妻などを殺害した罪に問われた裁判が、全米に生中継された例がある。そのときは、約1億5000万人以上が評決を視聴したといわれている。このように、裁判の生中継の影響は計り知れない。当然、トランプ陣営は、予想される負の影響を最小限にするか、プラスにもっていくだろう。