トランプの「パワーの源泉」
さらに、3番目の要素として「アイデンティティー(同一視)」の力がある。米国の社会心理学者ジョン・フレンチとバートラム・ラーベンは、5つのパワーの源泉に、「強制力」「報酬力」「正当権力」「専門力」並びに「アイデンティティー」の力を挙げている。両氏によれば、強制力には恐怖心や罰が含まれている。報酬力は金や昇進、正当権力は組織における地位、専門力は専門知識を指す。一方、アイデンティティーは、フォロアーがリーダーに対して心理的に一体感を抱いている状態であり、5つの中で、最も強いパワーを発揮するといわれている。
トランプ前大統領とトランプ支持者の関係は、アイデンティティーに基づいている。トランプ集会で、支持者を対象にヒアリング調査を行うと、彼らはトランプ前大統領に関する米メディアや民主党からの批判について、自分たちが攻撃を受けたかのように感情的に反論する傾向がある。「米国を再び偉大に」が印刷された赤い帽子を被っている支持者や、「神と銃とトランプのみを信じる」というメッセージが書かれたTシャツを着たトランプ支持者、メキシコとの「国境の壁」をデザインしたスーツを着用してトランプ集会に参加する支持者は、トランプ前大統領に対してアイデンティティーを確立していることは確かだ。
それゆえ、トランプ前大統領の主張が自分を肯定する。ということは、同前大統領が最高権力者になれなかった場合、自分を否定されたことになる。
「熱意」「忠誠心」「アイデンティティー」は
本選でもアドバンテージになり得るのか?
今後も共和党予備選挙で、トランプ前大統領は「熱意」「忠誠心」「アイデンティティー」の3つの心理的要素を組み合わせて、勝利していく公算が大きい。仮に、トランプ前大統領が第2戦目となる東部ニューハンプシャー州での共和党予備選挙で勝利した場合、デサンティス知事とヘイリー元国連大使は、同前大統領の怒涛の勢いを止められないかもしれない。
しかし、本選において鍵を握るのは、トランプ支持者ではなく、無党派層や郊外に住む女性である。彼らや彼女らには、トランプ前大統領に対して熱意、忠誠心およびアイデンティティーはない。つまり、トランプ前大統領の3要素は、党員集会と予備選ではアドバンテージになっても、本選ではならないと考えられる。