今、英国で、ある「IT絡みの事件」が大きな議論を呼んでいる。英国の郵政省が導入した「ホライゾン」という事務支援システムに不備があり、個々の郵便局の窓口で実際の取引金額によるキャッシュの残高と、システムが吐き出す残高数字が一致しないケースが数多く発生した。
これは、1999年頃から発生した事象で、発生した当時は原因不明のまま、多くの郵便局長たちが不正、つまりキャッシュの横領を疑われ、少なくとも700人以上の局長らが無実の罪で起訴されたという。システムのトラブルであるのに、個人による着服という冤罪を仕立てられて破滅に追い込まれた人が多く出たのである。
ChatGPT時代だからこそ刺さった過去の問題
この事件がどうして2024年の現在になって話題になっているのかというと、年明けの英国で、この事件を題材にしたドラマが放送されたからだ。ちょうど、22年暮れに生成AIのChatGPTが稼働開始となり、世界中でAIが人間の知的労働を奪うのではないかという不安心理が増大していた。
この事件はAI以前のテクノロジーの問題であるし、問題の発生は前世紀に遡る。けれども、「コンピューターの暴走で多くの人の人生が破壊された」というストーリーは、まさに24年の視聴者の「心に刺さった」のであった。
このドラマをきっかけに、英国世論の事件への怒りが再燃してしまった。そして、これまで事件の責任を取らず補償もしてこなかった富士通に対する批判が加速し、ついに議会で取り上げられるに至っている。
ただ、事件を起こしたのは、実は富士通の英国法人ではない。ICLという純粋に英国の企業である。諸般の事情から80年代に富士通と業務提携がされ、90年代の末に完全子会社化したのである。つまりM&A(企業買収)案件として、富士通グループ入りしたケースである。(その後はICLでなく、富士通を冠した商号に変更している)
この事件について、日本では「海外現地法人へのガバナンスが効いていないケース」という認識がされている。また、日本のソフトウェア産業に見られる「ITゼネコンによる外注先への丸投げ体質」が問題だという評価も可能であろう。どちらも間違いではない。
だが、今回は日本企業が類似の問題に巻き込まれないために、取るべき方策として、もう少し具体的な提言をしてみたい。それは、M&Aにおける経営判断の精度を高めるという喫緊の課題である。3つ提言したい。