しかし、米軍がイラン本土を攻撃しないためにイランの武器製造ラインは無事であり、イランの代理勢力はイランから武器の補給を受けて、再びシリアとイラクの米軍に対する攻撃が再開される可能性が高い。バイデン政権としては、11月の大統領選挙までイランとその代理勢力を大人しくさせておければ良いとの計算ではないかと想像するが、中東ではメンツが重要であり、イラン側が11月まで大人しくしているとは思われない。
イラン側は、バイデン政権が初めから「イラン本土は攻撃しない」と宣言したことに安堵し、同時にこれをバイデン政権の「弱さ」のあらわれと受け取る可能性がある。
シリアとイラクの一層の不安定化
今後、暫く米軍の空爆は続くものと思われるが、いずれ、イランの代理勢力のシリア、イラクにある米軍の駐屯地への攻撃が再開されるだろう。米側も今回の大規模空爆で閾値が下がっており、これまでのように死者が出ない限り報復しないのではなく、イランの代理勢力が米軍を攻撃すれば即座に報復すると想像される。シリアとイラクで米軍とイランの代理勢力が攻撃の応酬を続け、この地域の情勢は一層不安定化し、不測の事態が起きる可能性も高まるものと思われる。
この論説は、ずるずると米軍がシリアとイラクでの軍事介入に引きずり込まれるという、まさに今起きつつある事態を避けるために米軍の撤退を提言している。現在起きていることを見ると、論説の主張は正しいように思われるが、シリア、イラクから米軍が撤退すれば、イラン側に代理勢力を使った非対称戦争で米国に勝ったと確信させ、イランを一層強気にさせるのは間違いない。
【教養としての中東情勢】特集はこちら。