2024年12月12日(木)

教養としての中東情勢

2024年2月20日

外堀を埋められているのに反発

 ブリンケン国務長官はネタニヤフ首相との会談で、イスラエルへの誘い水として、案に同意すれば、アラブの大国サウジアラビアがイスラエルとの国交樹立に応じる意向であることを伝えたという。バイデン政権はアラブ諸国や欧州主要国にこの案を根回しし、イスラエルが拒めないよう外堀を埋めにかかった。

 だが、こうした米国の行動が「パレスチナ国家創設には断固反対」との立場をとる首相を怒らせることになった。首相はこれまで、中東和平の道筋を示した「オスロ合意」を「イスラエルが調印したのは決定的な過ち」と批判、「パレスチナ国家を阻止してきたことを誇りに思う」などと「2国家共存」を絶対に拒絶する考えを強調してきたからだ。

 首相としては、パレスチナ国家樹立を盛り込んだ停戦案など受け入れるつもりはハナからなかった。ハマスがこの提案に対して、「4カ月半の停戦」と「イスラエル軍のガザからの完全撤退」などを要求したことはむしろ〝渡りに船〟だっただろう。首相はハマスの要求を「妄想」と一蹴、その過大な要求のせいにして交渉を担当していたイスラエル特務機関モサドの長官を引き揚げさせた。

 極めつけはネタニヤフ政権が2月18日、「2国家共存」という国際社会の求めを拒絶、「パレスチナ国家の一方的な承認に反対する宣言」を公式に発表したことだ。英政府などが実際のパレスチナ国家樹立に先立って「国家」を象徴的に承認しようとの動きを見せたことをけん制したものだ。

 しかし、停戦交渉を拒否した首相に展望があるかと言えば、見通しは暗い。140万人の住民らの避難が進まないまま、ラファへの本格攻撃に踏み切れば、バイデン政権はじめ国際社会の反応は苛烈なものになるだろう。

 米紙などによると、軍や情報機関は多くの住民や人質を犠牲にするような高い代償を払っても、ハマスを完全に壊滅させることはできない、と分析している。「歴史は決してイスラエルに甘くないだろう」(識者)。

 「戦争を人質にして政治的な生き残りを図る」ネタニヤフ首相の手法は限界を迎えている。

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