2024年4月18日(木)

中国メディアは何を報じているか

2013年10月30日

 中国では政府の官舎など公的な建物に「人民のための奉仕する(為人民服務)」という看板がでかでかと掲げられている。しかし、その実、多くの高級幹部たちが腐敗に手を染め、「自分たちに奉仕する」のが実態だろう。そうでなければ汚職額が何十億、何百億円と信じ難い金額に上ることはないだろう。

 石油部門は言うまでもなく、軍も利権を持つのは、例外ではなく、兵站を司る総後勤部の高級指揮官(谷俊山副部長、中将)さえも汚職で更迭された。引退したばかりの事実上の軍トップ(中央軍事委員会副主席)だった徐才厚将軍も汚職容疑の憶測が出ている。国を守るべき軍人たちはいったいどうしてしまったのか。特権をかさにきて利権集団に成り下がってしまったのではないか。石油にしろ、軍需産業にしろ、こうした業界は中国では莫大な利権を有し、民衆からかけ離れたところに君臨しているのだ。

 もともと解放軍は、日本軍や国民党軍に対峙してゲリラ戦を戦う中で民衆の支援を獲得する必要があった。そのため「三大規律八項注意」と呼ばれる規定を制定し、兵士一人一人が民衆との関係改善を心に刻んできた経験がある。ところがその出自を忘れ、特権階級の既得権益集団になってしまったのか。

 軍と民衆の摩擦の拡大は民衆の軍への不信を象徴する。軍ナンバーをつけた車が各地でいざこざを起こし、大衆が怒りを爆発させ、暴動も頻発している。軍が軍用ナンバーを取り換え、高級車の使用を制限する措置をとり、警備条例を改定したのはそのためである。

軍の立場から習政権の大衆路線を援護

 共産党による軍の統制においてトラウマとなっている天安門事件(1989年)からはや四半世紀が経とうとしているが、事件の再評価が行われる気配がないのは指導部で天安門事件への対処が評価され昇進した者が少なくないためだ。軍でも功績が評価され出世してきたものが上層部入りし始めている。艾将軍はその代表格だ。そのため本文は天安門事件時に切り込み隊長として武勇を鳴らした彼が、今度は民衆の側に立って党の汚職を糾弾しているというわけではなく、軍の立場から云々して習政権の大衆路線を援護しているに過ぎない。ただもしこれが、石油閥の周永康などの追い落としを視野に入れた「虎狩り、ハエ叩き」(大物の汚職取り締まることの比喩)であれば話は別だが、そのような意図の有無はここからは読み取れない。

 こうした軍内部で天安門事件出世派とでもいうべき幹部たちの出世は対治安維持に対する強硬派の主張を正当化している。天安門事件同様の騒乱が起きれば再度発砲する、と息巻く軍人もいるようだ。集団騒擾事件が年間18万件ともいわれる今日、軍の内部引締めを強化し、汚職を撲滅すると同時に治安維持を図るという二つの一見相容れない目標達成のため大衆の信頼回復に努めるという習政権の方策は無難だ。しかし、その実、党最高レベルで財産公開を拒む現状での政治思想プロパガンダや口先ばかりの改革や民衆へのラブコールが民衆の心に響くと思えない。

 さらに日本にとって大事なポイントを忘れてはいけない。尖閣諸島領有権の問題である。日中間で重要な懸案だが、中国にとってこの問題は国内のナショナリズムや汚職、政治改革といった様々な喫緊の国内課題の延長線上にある問題なのだ。尖閣問題で活発になっている石油閥や軍の活動を見ても明らかだ。艾将軍の懸念は国際化によって見えにくくなっている問題の本質を再確認させてくれるものだ。


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