まちの人々も異口同音に「サンフランシスコは米国で一番物価が高い」とぼやく。治安の上でも価格の面でも観光客が安心して飲食できる店が減っている。ヒルトンなど大きなホテルのレストランやバーは安心できるが、日本における報道では、そのヒルトンも売りに出ているという。
一歩裏通りにはいると、異様な雰囲気が漂う。ホームレスの小さなテントが路上に張られ、バス停の屋根の下にも荷物らしきものを抱えて住み着いているような人もいる。
生活困窮による万引きが増え、商店や飲食店は警備員や用心棒的な人々を雇わざるを得なくなり、経費倒れとなる。警察官も傷害や殺人なら対応するが、窃盗などは被害が高額でないと捜査しない。そのためさらに閉店が増える。いわゆる負の連鎖が生じている。
大麻の合法化ではびこる違法麻薬
こういう通りには、何かわめいたり、あるいは工事用の鉄パイプを投げつけたりする錯乱状態に人もいる。冬なのに裸に近い姿や、バスローブ一枚でわめきながら歩いている人もいる。映画で見るゾンビのように立ったまま手をだらりと下げてふらふらしている人もいる。
同行した看護大学の教授によると、麻薬の作用で脳は睡眠状態に近い中で身体は起きている状態だという。駅のコンコースにも立ったまま壁に寄りかかって寝込んでいる金髪の若い女性がいたりする。
カリフォルニア州では2016年に大麻が合法化された。連邦政府は大麻も違法としているが、カリフォルニア州では大麻の所持、売買、吸引を取り締まることはしない。ちなみに「大麻は身体への悪影響がない」「依存性がない」という人もいるが、日本政府は「それは間違った情報」であるとしている。
大麻が合法だと、そのほかの麻薬の路上売買等も取り締まりにくくなる。警察にとっては、その麻薬が大麻以外だと確信できなければ逮捕できないからである。結果として、大麻以外の違法麻薬、粗悪な麻薬がはびこることになった。
20世紀の末にニューヨーク・マンハッタンの120丁目あたりから北側のハーレム地域が荒れ果てた時期があった。家主が放棄したマンションにホームレスが住みついて焚き火をするなど危険な状態が続いた。
改善されたのは、ニューヨークの景気がとてもよくなったからである。雇用が回復するとハーレムの目抜き通りである125丁目通りのレストランや小売商店が開店し始め、これらの店も雇用を増やすなどしてまち全体がよくなった。
このときのハーレムのホームレスは、アフリカンが中心で、次いで中南米からの移民が多かった。しかし今回、サンフランシスコのホームレスは、麻薬中毒患者を含めて、人種を問わない。