2024年7月24日(水)

プーチンのロシア

2024年3月1日

「〝普通の人〟には理解できない」
動員に怯える18歳の青年

 モスクワ市内では、スケートボードで遊ぶ若者らが目立つ。ソ連時代に整備された公園の多くは、重厚感のある石畳で覆われ、スケートボードの技を磨く場としてはもってこいだ。

スケートボードで遊ぶモスクワ市民たち。イワンはここには映っていない(筆者撮影)

 グループで遊ぶ若者が多かったが、それから離れてひとりで、大きな日本製のヘッドフォンで音楽を聴きながら無心に小技を繰り返す青年がいた。そっと近づいて、「日本から来ました」と挨拶をしてウクライナ侵攻への思いを聞くと、イワンと名乗る青年はヘッドフォンを外してこう即答した。

「絶対に反対だよ。何のためにこんなことをしているのか、〝普通の人々〟にはまったく理解ができない」

 イワンはまだ18歳だった。彼はこうも語った。

「僕は今日、進学のための試験を受けたんだ。もし受からなければ、戦争に行くことになるのかもしれない」

「ユーチューブで見たんだ。シベリアに住む兵士の母親が、〝うちの子は、だまされて戦争に連れていかれたんだ〟って叫んでいた。本物の戦争だって、知らされないまま戦地に送られたんだ」

 取材当時、ロシアの男性には18~27歳の間に1年間、兵役につく義務があった(2023年7月25日、上限を30歳に引き上げる法令がロシア下院で可決された)。

 その義務を免れるには、大学に進学するか、政府機関に勤めるなどの理由が必要だ。

 まだわからない試験の結果を想像しながら、イワンは締め付けられるような気持ちだったに違いない。

 私は「大丈夫だよ、必ず受かっているよ」と、根拠もなく彼を励ますのが精いっぱいだったが、「ありがとう」と笑顔を見せて再び彼はヘッドフォンをつけて、スケートボードに打ち込み始めた。

 ただ、彼らのようにウクライナ侵攻に対する考えを素直に語ってくれる若者は、ごく少数だった。

 私はモスクワの街中で、多くの人々に声をかけて回ったが、20~30代ほどの若者の多くは「ごめんなさい、その話題については、何も意見を言わないようにしているの」と言って断ったり、「一切、ノーコメントだ」と言って私をにらみつけたりして、答えてくれようとはしなかった。

 政権が戦争を推進しているなか、その戦争に対する評価を海外メディアに対して発言することには、ためらいがあったに違いない。海外メディア相手ではなくても、戦争を評価するという行為自体が、はばかられる空気があった。

母国を脱出するため、航空券を求め長蛇の列

 ロシア国内ではすでに、戦争反対の声を上げることは困難になっていた。そのようななか、ロシアの先行きに絶望的な気持ちになった若者らの多くがとった選択肢のひとつがある。国外脱出だ。

 モスクワ市内で、車が行き交う大通り沿いに、早朝から何重にも曲がりくねった長蛇の列をなす人々を見た。2023年12月現在も中東行きの路線を運航する、外資系航空会社のオフィスだ。市民のひとりは列を見つめて「ウクライナに侵攻した直後は、この何倍も人がいたよ」と教えてくれた。彼らは、航空券を買おうとしていたのだ。


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