2024年11月22日(金)

勝負の分かれ目

2024年3月11日

 今年はあの日から13年が経過した。プロに転向した羽生さんは昨年に続き、故郷・宮城の地でアイスショーの主役を担った。

 オープニングではライトが消え、静寂の会場が拍手に包まれる。客席と一体となった演出で場内に「満天の星」が広がったような光景が作り出された。

 「3・11を思い返し、この氷の上に立つと、やはり悲しい気持ちや記憶を思い出してしまいます。それでも、ここにいらっしゃる方々は、みんな13年間を必死に頑張ってきた、そして応援してくれてきた方々だと思います。どうか僕たちみんなで今日は皆さんに祈りと応援と祈りと希望と、そして困難に立ち向かう勇気を、それぞれのスケーターがそれぞれのプログラムの中で表現したいと思っています。

 この場所に来られなかった方々も、いまはもう会えなくなってしまった方々も、そして、この13年という中で『生』を受けて、一生懸命歩いている子供たちに向けて、僕たちは今日、一生懸命、頑張らせていただきます!」

 羽生さんは、6100人の観客を前にこう語りかけ、『notte stellata』が幕を開けた。

「陸上と氷上のギャップを生まない」

 冒頭では、公演名にもなっている演目を情感たっぷりに舞い、大トリを飾る演技では、希望をコンセプトとした単独での新プログラム「ダニーボーイ」をピアノの旋律に乗せて演じた。中でも、前半のハイライトであるスペシャルゲストの女優・大地真央さんとのコラボレーションが実現した「カルミナ・ブラーナ」では、表現に一層の幅を広げた舞を演じた。

 大地さんが演じる運命の女神に、自由で無垢だった少年が翻弄(ほんろう)されながらも抗いを見せ、やがて全てを受け入れて前を向いて進んでいく壮大なストーリーの熱演には、被災地への思いが込められていた。

 「カルミナ・ブラーナに関しては、(前半部分は)まだ世界をきちんと知らない無垢な少年が、その中で幸せを感じながら生きていて、冒険をしたり、草花に触れてみたり(ということを表現しています)。そんな凄く無垢な少年が成長していくことによって、やがて運命の女神が現れて、運命にとらわれていきます。自由に無垢に動くだけじゃなくて、運命の歯車に左右され、自由には動けなくなっていきます。しかし、最終的には、その運命も全てを受け入れて、運命そのものと対峙しながらも、自分の意志で進んでいくというストーリーになっています。

 津波や震災、今は能登半島(地震)のこともそうですが、人間の力ではどうしようもない災害や天災があります。僕はこのストーリーの中に、苦しみを感じたとしても、抗いながらも受け入れて進んでいくというメッセージを込めたいと思いながら滑っています」

 羽生さんは自らが被災者でありながら、いつも「もっとつらい経験や悲しい思いをされたり、命を失った方々やご家族がたくさんいらっしゃったりします」と他者への気遣いを忘れない。そんな中で、自らが祈りや希望の思いに込める思いをどう表現するかに頭を巡らせたのだろう。


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