ユーザーサイドも独自に半導体作る
これに対して半導体のユーザーサイドも、「エヌビディアに対抗して独自の半導体を作ろうとする動きが生まれている。メインユーザーである、グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどがエヌビディアの半導体を使わなくて済むように自社で設計開発を開始している。なぜなら、エヌビディアの半導体が高額なことと、電力消費の少ないものの開発を迫られているためだ」と指摘する。
半導体製造の歴史を見ると、数年おきに回路の線幅をより狭くして、一つのチップでより多くの性能を発揮できるように開発されてきた。しかし、現状で最先端の2ナノメートル(1ナノは1億分の1)を超える微細加工は物理的に難しくなってきており、これまでのチップを作るうえでの平面的な設計から、上に積み上げるような3次元のタイプが主流になりつつあり、「チップレット」と呼ばれる積層型のものが多く使われるようになってきている。エヌビディアもこの「チップレット」タイプのAIチップを設計し、TSMCに委託して量産している。
キーボードのないパソコン
「年内に発売するといわれているマイクロソフトの生成AI機能内蔵の高性能パソコン(AIPC)は、拡張性を持ったもので、将来的にはキーボードがなくなる。ボタンが一つあるだけで、あとはしゃべる音声だけですべての動作をしてくれるパソコンが登場し、メタバースの世界にどんどん近づいてくる。今年の夏には新しいChatGPTが登場して、プレゼンテーションとか企画書とかは、人間が要望を出すだけですぐに作ってくれるようになる。その先は、自分のアバターが仮想現実の中で書類を作るようになり、人間は提出されたレポートを見るだけという世界になってくる」と近未来を予測する。
アップルが自動運転の開発を中止したというニュースには「そういうAIに関する大きな流れの変化を感じたから、開発を中止したのではないか。実用化には時間と費用が掛かる自動運転よりも、アップルが得意とするAI系の分野にフォーカスした方が良いと思う。中止の発表があってからアップルの株価も少し改善し、自動運転の開発がスローダウンしている中で、無理に自動車に投資する必要はないのではないか」と説明する。
巨額な補助金
杉山氏はAI市場におけるグローバルの勢力地図について「ハードはエヌビディア、ソフトウエアはChatGPT、サービスはGAFAM(米国大手ITのグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)が強く、現状、日本の出る幕はあまりないのが現実だ」とみている。
現に日本の半導体メーカーのルネサスエレクトロニクス、キオクシア、ソシオネクスト、部品メーカーのロームなどは業績があまり向上しておらず、AIブームの恩恵をそれほど受けていない。
そうした中で、世界最大のファウンドリのTSMCが熊本県菊陽町に「上陸」し、2月23日に半導体工場の開所式が行われた。年内には本格稼働し、製造した12~28ナノの半導体の大半は、近くにあるセンサーなどを生産しているソニーの工場に供給される。投資額は86億ドル(約1兆3000億円)に上り、経済産業省も経済安全保障の観点から重要プロジェクトと位置付けて最大で4760億円を補助する。
さらに、27年末には第2工場が稼働することも発表され、ここではより先端的な6ナノのロジック半導体を製造し、AIチップ、自動車向けに提供される予定。この工場には7320億円を補助する予定で、第一工場と合わせると補助金総額は1兆2000億円を超える。TSMCの工場を運営する子会社にソニーグループ、デンソー、トヨタなど主要な半導体ユーザーが出資しており、当初からここで生産される半導体を使うユーザーが決まっている。TSMCが日本に進出したことで、半導体関連メーカーが続々と熊本周辺に集まりつつある。その経済効果はこの10年間で20兆円とも言われ、いま九州は「TSMC効果」に沸いている。