2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2024年3月15日

「日本が重要な生産拠点」

TSMCの熊本工場。「JAMS」は「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社」。TSMCが過半数を出資し、熊本県に設立した子会社(撮影・編集部)。

 TSMCは日本以外では、米国アリゾナに3ナノの半導体工場を建設する計画を立てている。当初は24年に稼働させる計画だったが、技術者が集まらないなどの理由で建設が大幅に遅れている。このほかドイツにも建設を計画しており、TSMCとしては世界の主要ユーザーがいる日米欧のそれぞれ製造拠点を置いて、「台湾有事」をも想定してリスク分散を図る狙いがある。また27~28年までにいまの最先端の半導体よりさらに微細な1.4ナノの半導体を量産する計画を持っている。

 現状では、1.4ナノの量産は台湾で製造されるとみられているが、今回日本で建設された工場が計画通りにオープンしたこと、日本政府から多額の補助金が得られたことなどから、杉山氏によると「TSMCの劉徳音(マーク・リュウ)会長は日本を重要な生産拠点として高く評価している」と言われ、今後の半導体マーケット、熊本工場の稼働の状況によっては、1.4ナノの量産を日本で行う可能性もあるとみられている。

「レガシー」から「最先端」へ

 もう一つ、2025年の稼働に向けて急ピッチで北海道・札幌に建設が進められている半導体工場がラピダスだ。この会社には、トヨタ、ソフトバンク、ソニーグループなど8社が73億円を出資、日本政府も3000億円を助成するなど、官民一体の「日の丸半導体」プロジェクト。27年末には最先端の2ナノのロジック半導体を量産すると発表している。現在は、採用された技術者が米国のIBMに派遣されて研修を受けている。

 このあと、オランダのASMLから提供される最新鋭の露光装置を使って2ナノ半導体の量産する計画になっている。ASMLは今年末に札幌に技術支援拠点を設置するとしており、欧米の先進技術の支援もあって、ラピダスは先端半導体の量産を急ごうとしている。しかし杉山氏は「今の日本では40ナノしか製造できていない。いきなり2ナノを量産するのは、野球の世界で言えばメジャーリーグに挑戦するようなもの」と指摘、大きな技術ギャップを克服できるかどうか課題である。

 2ナノクラスの最先端半導体は、TSMCが来年から量産を開始、サムスンも25年から、インテルも26年からスタートさせたいとしており、ラピダスの量産時期は、これらのメーカーと比べると2年程度遅れる。

 課題は、量産されるタイミングで使ってくれるユーザーがいるかどうかだ。ラピダスが量産する半導体は、IBMのスーパーコンピュータなどで使われることになっているが、これだけでは足りない。果たして十分な顧客を確保できるかどうかもポイントになる。

経済の再興につながるか

 TSMCの熊本工場とラピダスの札幌工場が稼働することで、低迷してきた日本の半導体産業が復権して、再び輝くことができるかどうか。経済安全保障上も半導体はこれからのデジタル社会では不可欠の部品となるだけに、日本経済にとっても失敗は許されない国策プロジェクトだ。

 半導体ビジネスはいま生成AIブームが追い風となって、50年に一度のチャンスが到来、世界的にみて2030年には1兆ドル(150兆円)産業に成長しようとしている。日本では2つの最新鋭工場が立地するのを突破口にして、果たしてこのチャンスをものにできて、人口減少で先行き見通しが暗くなりがちな経済の再興につなげることができるのかどうかが問われている。

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