2024年5月14日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年3月27日

 まず豪州は現存の通常型潜水艦を改修する。次に、30年代初頭には米国から中古のバージニア級原潜を受け取る。10年後には、最初のAUKUS級潜水艦(英国で設計され、米国の技術を採用し、英国と豪州で建造される)が展開する。

 豪州国防機関の中には、原潜AUKUSの建造で英国が大きな役割を果たすことに静かな失望がある。英国の軍事産業基盤に対する信頼は、米国程には高くない。

 これらの疑念は、英空母に係る問題や最近のトライデント核ミサイルの試射失敗で更に高まった。米陸軍士官学校のエリザベス・ブキャナンは、「原潜AUKUSは恐らく実現しないだろう」と直截に言う。豪州の反対派は、長くて高額な道を国が進み始めていることを懸念する。

 AUKUSに対する戦略的な反対論は最も弱い。豪州政府は、日印同様に、中国の軍事的、領土的野心に正当な懸念を抱いている。

 中国が台湾を侵略するか、あるいは南シナ海での立場強化に成功した場合、中国がインド太平洋地域で支配的な力となり、豪州の安全に深刻な影響を与える可能性があることを理解している。AUKUSは、対中抑止力を強化する試みである。

 AUKUSは、単に潜水艦だけでなく、高超音速、サイバー、人工知能等の分野で先進的な軍事技術を共有することを目的としている。軍事技術の進化につれて、AUKUSも進化できるだろう。

 この協定は、最終的には決意と長期のコミットメントの表明である。これは、中ロが現行の国際秩序を転覆させようと協力しているという共通の認識に基づいている。かかる認識は、今まで以上に緊急かつ妥当だ。

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注目される技術協力の可能性

 AUKUSは、2023年12月の米国務省の承認(訓練装置などの対豪移転につき)やもっと揉めると思われた米議会の承認も同月中旬に得て、動き始めている。が、豪州国内では、与党労働党内(元首相キーティングやターンブル等)を含めいまだ異論が続いているようである。

 ラックマンは、異論は、戦略、政治、技術分野に亘ると言う。しかし、同氏も言うようにAUKUSは戦略的には合理的なものであり、計画通りに成功させることが重要である。

 ラックマンは、①豪州国防機関内には原潜AUKUSの建造で英国が大きな役割を果たすことに対する失望があり、英国の軍事産業基盤に対する疑念もある、②米陸軍士官学校のブキャナンは「原潜AUKUSは恐らく実現しないだろう」と言っていると指摘する。

 原潜建造につき英国の役割が大きいことに豪州内に不満があることには驚かない。これらは当初から予想されたことで、今後もこの種の問題は起きるだろう。それは如何なる同盟にも付き物だ。大事なことはそれを一つ一つ解決していくことである。


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